就職面接について

 12月に大学生の就職活動がスタートし、今年も相変わらず厳しい状況のようだ。何故大学生の就職内定率が低いのかについては、色々と議論されているが、今日は就職面接について気になる点を書いてみたい。

 わたしが外資系石油会社の人事部長をしていた時、他の石油会社と統合(実質的な合併)し、翌年の新卒採用を共同で行ったことがあった。10年以上前のことだが、その採用面接の時、もう一方の会社のある部長が女性の応募者に対し、「結婚しても会社で仕事を続けますか?」とたずねた。わたしは腰が抜けるほど驚愕し、その面接が終わるとすぐにその質問は不適切なのでしないようにと注意した。強面のその部長は何が問題なんだと言わんばかりの顔をして「わたしは会社のために聞いているのだ」と言った。

 面接の前に簡単な注意をして'応募者には出来るだけ同じ質問をするように’と確認したが、他の会社の幹部にあまりに子供じみたことを注意するのもどうかと思い簡単に済ませたのがいけなかったのだろう。その会社は私がいた会社に比べるとかなり日本的な会社だったので、女性にそんな質問をするのが特別問題とは思っていなかったのかもしれない。

 あれからずいぶんたっているので、現在はさすがに上記のような例はないと思うが、買い手市場が続いていることを考えると、いまだに学生に対して不適切な面接が行われているのではないかと心配になる。 

 Robert L.MathisとJohn H.Jacksonの'Human Resource Management' という本は、人事関連の教科書としてはベストセラーだが、その内容は人事の活動のほとんど全てを網羅し、アカデミックでありながら実際的な視点からの分析もあり、日本の人事関連の本に比べるとはるかに示唆に富んでいる。その中に'人材の選抜'(Selection of Human Resources)という章があり以下のようなことが述べられている。

 応募者へのインタビューは系統だったもの(structured interviews)でなくてはならない。系統だったインタビューとは 標準化された一連の質問を全ての応募者にするもので、それにより応募者の比較がより容易になる。具体的には、応募者の過去の経験を時系列にたずねることから始め、過去に遭遇した困難や仕事上の問題にはどんなものがあり、どんな対処をして解決したかなどを尋ねるのが良い。

 一方で計画性のないインタビュー(less structured interviews)は選抜のために行うべきではないと言っている。これらは往々にして面接の訓練を受けていないオペレーションのマネージャーが(販売、流通、製造等)がしがちなもので、その場で思いついた質問をする。そして応募者の答えに反応して次の質問をするので、話がどこに行くか分からなくなり、選抜の役には立たず、これで何人かの中から一人を選んだら、訴えられた時に勝てるかどうかも分からない。

 してはいけない質問としては次のようなものをあげている。
+'はい’か'いいえ'で答えられるような質問。例えば'あなたは大事な約束は必ず守ってきましたか?’という類のもの。
+答えが予想されるような質問。質問をする人も答える方も正解が分かっているようなもの。
+真面目なもしくは正直な答えが期待できないもの。例えば'今まで同僚とはどのようにやってきましたか?’答えは当然'上手くやってきました’となるだろう。
+法的に問題がある質問。人種、年齢、性別、出生国、既婚か否か、子供の数などがその例である。これらは面接のみならず、応募書類にもあってはならない。
+仕事に関係のない質問。

 アメリカの教科書なので必ずしも新卒採用だけではなく、経験者の採用が重要な課題なので、そのまま日本には当てはまらないところもあるが、本質的には正しい指摘だと思う。読者にインタビューをする立場の方がおられたら是非上記の点を注意してほしいし、一方就職活動中の学生の方は上記のような質問をする会社は注意した方が良いだろう。もし希望する会社でそんな質問を受けたら、正面から答えるのではなく、相手が不快にならないようなウイットのある返事が出来るように心がけて欲しいと思う。