ハラミちゃんとアンソニー・ホロヴィッツ

 妻が「愛の不時着」を見るためにNetflixに加入したので、わたしも愛好者になった。Netflix専用のドラマのほかに、既存のドラマや映画を楽しめる。また従来はパソコンで見ていたYoutubeがTV画面で見れるのも嬉しい。ドラマでは昨年話題になった「全裸監督」を見た。村西とおるをモデルにしてAV監督の生きざまを描いて中々の出来栄えだ。主演は山田孝之満島真之介玉山鉄二ほか有名俳優をそろえた豪華版だ。題材ゆえに過激な性的シーンが多いが、不思議と猥褻さなど感じず、何かスポーツの根性ドラマを見ているようだった。 バブル前後のAV業界の裏表が描かれていて興味深い。 

 

 残念ながら今日のテーマはこれではなく、Youtubeで知ったハラミちゃんというストリートピアニストのことだ。公共の場所に置いてあるピアノを弾いてその様子をYoutubeにあげている。都庁にある草間彌生が模様を付けたピアノを弾くシーンが多いが、駅やショッピングセンターなどでも演奏している。はじめはまばらだった観賞者がピアノ演奏の出来栄えにひかれてだんだん増えていく様子や感動する姿に思わず見入ってしまう。弾くのは日本と欧米のポップスやロックが多いが、基本的にはなんでも演奏する。ほんとうにレパートリーは広く無限のようだ。彼女は知らない曲でも一度聴くと大体弾けるようで、そうした様子は家でファンからのリクエストに応える動画に映っている。iphoneを手元に置き、分からない曲はそれで検索して聴いたすぐ後には、ほぼ完ぺきに演奏する。メロディだけではなく、原曲のギターやベースのフレーズも巧みに入れたりするのが凄い。わたしなどには神業にも思えるが、わたしのギター教師も同じようなことをするので、音楽的才能があって何らかの楽器に熟練している人には珍しくないことなのかもしれない。

 

 ハラミちゃんは本名や経歴は不明だが、本人がYoutubeで語っているところによると、音楽系の大学を出て会社勤めをしていた。体調を崩して会社を辞めると家に引きこもっていたが、ある時都庁でピアノを弾いてその様子をYoutubeに載せた。本人は大した期待もしていなかったそうだが、2週間で20万ものアクセスがあったそうだ。その後いろんな場所でピアノを弾きYoutubeで発信しているうちに評判になり、今は70万を超えるチャンネル登録があると言われている。すっかり有名人になり、オリジナル曲を発表したり、ソロコンサートを行ったりしている。TVの芸能界特技王決定戦でも優勝した様子がYouTubeに載っている。しかし今でもストリートピアニストであり続けいろんなところで演奏している。広瀬香美が突然参加してコラボした動画にはわたしも感動した。これには700万を超えるアクセスがあったそうだ。ストリートピアニストは他にもいて男性で有名な人もいる。ぜひYoutubeでどうぞ。

 

 最近感動したことのもう一つはアンソニーホロヴィッツの小説だ。昨年「カササギ殺人事件」を読んですっかり感心して、次作を見つけたのですぐに読んでしまった。この「メインテーマは殺人」も2019年ミステリランキングで7冠制覇した「カササギ殺人事件」に劣らない傑作だと思う。この人は英国人の作家で若者向けのシリーズ「女王陛下のスパイ、アレックス」というので人気を博したそうだ。TVドラマの「刑事フォイル」、「バーナビー警部」の脚本を書いたり、シャーロック・ホームズシリーズや007シリーズの続編を書いたりしたそうだが、わたしは「カササギ殺人事件」を読んで初めて知った。

 

 だからこの作家が以前から今のような形式の小説を書いていたのかは分からない。しかしこの2作を読んで感じるのは小説の設定の巧みさだ。前作はスーザン・ライランドという編集者が担当する作家アラン・コンウェイが書いた「カササギ殺人事件」という小説が紹介される。これが前半だ。まるでコナン・ドイルアガサ・クリスティーかと思われるような英国情緒満載の小説で読者はすっかりその世界に取り込まれてしまう。しかし後半では全く違う展開で事件が起こり、読者は違う小説を読むことになる。まさに’一粒で二度美味しい’のだ。わたしの紹介を読んでもさっぱり分からないというだろうが、これ以上を言うとネタバレになってしまうから仕方がない。

 

 「メインテーマは殺人」は主要登場人物というか語り手がなんとアンソニーホロヴィッツその人なのだ。ホロヴィッツがあるいきさつで元刑事に密着して事件解決に動く元刑事の様子を描き、本にして出版するという設定だ。例えば大沢在昌佐々木譲が自らの小説に出てくるというか主要登場人物になるなんて考えられないのだが、この作家はそれをやってしまう。元刑事は大変有能な男でまさに捜査のプロで、彼から見ると有名作家のホロヴィッツはまるで能無しの役立たずのようになってしまう。作中のホロヴィッツもそれを感じてイライラするところがとても面白い。英国人の諧謔が見事に描かれている。ストーリーを言っては元も子もないので、興味を持ったら読んでください。現代のホームズとワトソンのようでこれもシリーズ化すると言われている。