小諸の懐古園と富岡製糸場


 11日から3日間長野に行った。軽井沢に2泊したが、今回はゴルフを1回にして観光をした。最初の日に行ったのが小諸の懐古園だ。名前は聞くが行ったことがなかったので訪れた。妻は中学の修学旅行で来たことがあるとのこと。

 

 懐古園小諸城址にあるが島崎藤村との関連で有名だ。特に近くを流れる千曲川を詠った藤村の「千曲川旅情のうた」はわたしたちの世代にはなじみ深く、行ってみようと考えたのはそのせいだ。園内には藤村記念館があり島崎藤村の生涯が紹介され、それにちなんだものが展示されている。当然「千曲川旅情のうた」もあり大きなパネルになっていた他、藤村自筆のものもあった。この詩はわたしたちの頃はたぶん中学(高校かもしれない)の国語の教科書に載っていた。すっかり忘れていたが記念館で’小諸なる古城のほとり・・・’の出だしを読むと懐かしく、続く歌詞を切れ切れに思い出した。50何年たっても体のどこかに残っているようだ。

 

 島崎藤村は小諸義塾という私学に国語と英語の教師として27歳で赴任し、6年間勤務したそうだ。その間に「千曲川のスケッチ」を書き、代表作「破壊」を書き始めたという。その後「夜明け前」などを執筆した文豪だが、わたしは藤村の本を一つも読んでいない 。わたしはいわゆる読書家ではないが本を読むのは好きだ。しかしこの時代の作家は漱石以外ほとんど読んでいない。関心がなかったわけではないが、なぜか読まなかった。高校生の頃読んだ日本人作家はもっと後の人たちだ。川端康成三島由紀夫吉行淳之介遠藤周作などはよく読んだ気がする。ドイツやフランスの作家も好んで読んだ。明確な理由はなく、なんとなく肌に合う、合わないで決めていたのだろう。

 そもそもなぜ島崎藤村の詩が教科書に載ったのだろうか。もちろん名作だというのはあると思うが、ほかには適当な候補がなかったのだろうか。わたしは詩のセンスなどないが五七調でリズムがいいなと感じたのは覚えている。

 話は変わるが、藤村だけではなく明治の作家には文豪と呼ばれる人がいた気がする。大正、昭和の作家にはあまり使わないようだ。外国の作家ではトルストイなどはよく文豪と書かれていた記憶がある。きっと大作家に対する呼び名なのだろうが、これも死語になりつつあるのだろう。豪はすごいといった意味で今でもよく使われるが、文豪だけではなく豪商や豪農なども使われなくなった言葉だ。ユニクロの柳井氏は高名な経営者で大金持ちだが彼を豪商とは呼ばない。前近代的な響きがあって今の時代にそぐわないのだろう。懐古園に行ったらこんなことも考えてしまった。

藤村記念館の写真。

 

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 旅行最終日は群馬県富岡製糸場に行ってきた。2014年に世界遺産に登録されて以来高い人気を博してきた所だが、コロナのせいもあり一時の混雑はないようでのんびり見学ができた。もっとも入れない建物もたくさんあり、見学ツアーに参加すれば見ることのできるものもあったようだが、時間の制約でそれはしなかった。人気スポットのせいか見学ツアーを行うスタッフが上から目線でツアー勧誘するのも煩わしかったのだ。

 

 明治の近代化の一環として作られた製糸場だが、きっと当時はモダンで美しい近代工場だったことがうかがえる遺産だった。明治3年に着工し5年には操業を開始したという。明治後半には日本は世界最大の生糸生産国になり、日本の近代の発展の基礎を作ったところだ。フランス人技師が中心となって工場を作り生産を指導したそうで、敷地内には外国人幹部(今風に言えばexpatriate)の宿舎のほかに寄宿舎(社員寮 )や診療所があり、行き届いた作りになっている。製糸場というとどうしても女工哀史を思い浮かべてしまうが、こうした設備を見ていると当初は当時の日本では最高に近い環境の工場だったような気がする。もし女性工員に対するひどい待遇があったとしたら、ずっと後で日本人だけで操業するようになってからではないだろうか。日本人資本家や経営者が工場労働者(しかも女性)の人権に配慮 するようになるのははるかに後のことだからだ。いずれにしろ明治初めにこんな大工場が完成し、高品質の絹を作り世界に輸出したのには驚くほかはないし、先人の知恵と努力には頭が下がる思いがした。

製糸場の建物と内部

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 女工の絵と診療所と寄宿舎

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