安倍首相が取り得る起死回生の一手

 コロナの緊急事態宣言の5月末までの延長がされる。当然だと思うが、一方で5月末ではすまないだろうとか、その後どうなれば自粛緩和にすすめるのかなど疑問がうかび、先の見えないことによる不安は高まっている。国民は重苦しい気分に包まれているが、それに輪をかけるようなのが権力の中枢にいる政治家たちの対応だ。コロナ流入阻止の初期行動の失敗、その後の感染拡大防止対策の不徹底など危機に対する対応能力のなさを目のあたりにして、国民はこの人たちに国を任せて大丈夫なのかという不安も感じ始めている。

 

 そうした状況で安倍首相が慇懃無礼な態度で国民に自粛を訴えても効果は薄い。安倍氏がテレビに出て訴えるのに大半の人は飽きているのだ。安倍首相の賞味期限はコロナにより一気になくなってしまったようだ。安倍首相がこれまで高い支持率を維持できたのは経済が回復していたからだ。雇用状況は改善し、株価は上昇した。未曾有の金融緩和を唱える官僚やエコノミストの意見に乗ったことでいわば賭けに勝ったともいえる。経済の回復による支持で自信をつけた安倍首相は、様々なスキャンダルにみまわれたが強権でうやむやにしてきた。国民はそのやり方に疑問を抱いていたが、代わりになる政治家・政党に信頼が持てないという理由で黙認してきたのだ。しかしコロナにより経済は大きく悪化し、コロナ対策そのものも効果が乏しい。国民は結局安倍首相は平時のリーダーでしかなく、非常事態を乗り切るには知力も行動力も十分ではないと思い始めている。

 

 安倍首相はその長い在位期間のうちに経済を発展させ、オリンピックをやり、憲法改正を行った大宰相として歴史に名を残すことを狙っているそうだ。しかし今の状況ではそれは難しい。もし安倍首相が歴史にその名を残そうとすれば、だれも考えていない、しかも多くの国民は納得する手を打つしかない。それは直ちに退陣を表明し、後継首相に石破茂を指名することだ。理由は人心一新でいいし、石破氏指名は政治家としての十分な経験と高い識見を考慮したと言えばいい。政治的空白を避けるために直ちに政権を委譲すると説明するのだ。

 石破氏は新たに内閣を作り国難にあたる。総理が石破氏に代わってもできることは限られているし、政策は安倍政権と大差ないかもしれない。しかし国民の意識や気分は大きく変わる。政治に信頼を置き、団結して困難に立ち向かう気持ちが強まるはずだ。安倍首相は国のために潔く権力の座を降り、政敵の石破氏に譲った名宰相として歴史に残る可能性は高い。こんなことが起こるのは100万分の1もないだろうが、だからこそ起死回生の一手になりうると思う。