急に盛り上がった衆院選

 国難だというなら解散などしなければよいと思っていたところ、小池都知事希望の党代表就任で当初の予想を超えた展開になり始め、安倍首相にとっては本当に国難になりそうな具合だ。小池百合子氏のしたたかさ、勝負勘には驚くしかないが、今回の選挙を面白くした立役者は前原誠司民進党代表だといって良いだろう。どんな経緯で民進党希望の党に実質的に吸収されることにになったのかは知らないが、前原氏の決断が事態を一気に流動化させた。

 民進党(旧民主党)は左翼から保守の政治家が反自民として政権を取るために集まって出来た政党である。だから所属政治家たちの国の基本政策についての考え方は様々というか全く異なることことも多く、その基本理念は何なのかがはっきりしなかった。その結果、誰にでも受ける抽象的な理念を掲げポピュリズムに走ることが多くなる。政権についた時も安全保障、経済、外交、エネルギーなどの政策で国民が信頼できるような政策を打ち出せず、政党としての信頼を失った。元々一緒にやるべきではない人たちや、現実的な対応能力のない人たちを抱え込んで集まり一つの政党としていたことに無理があったのである。

 京都大学高坂正尭に学んだ前原誠司氏などはバリバリの保守と言っても良いような考え方の政治家だから、民進党のこうした問題点には気づいていたはずだ。このままでは党がじり貧をたどり近い将来分解してしまうのは必至だった。それなら早い段階で希望の党に移行した方が、反安倍の勢力を強めるためにも、また現職議員の議席を守るためにも有効だと考えたのだろう。まことに明快で合理的な判断だと思う。前原氏は民進党には珍しく現実的思考ができる有能な政治家だが、民主党代表の時は偽メール問題で赤っ恥をかくなどもう一つ持っていない政治家と見られていた。しかし今回の件では男をあげたと思う。もちろん民進党を解体したとして非難する人たちも多いだろうし、今回の行動が本当に正しかったのかは歴史の中で判断するしかない。しかし今を生きる政治家としては文句だけ言って手をこまねいている人たちより上等だ。

 希望の党に移れ(ら)なかった政治家の多くは枝野幸男氏が旗揚げした立憲民主党に行くのだろう。考え方の近い人たちが集まるのだからこの方がスッキリする。枝野氏は東日本大震災の時に無能だった当時の首相の元で不眠不休の働きをして政治家としての責任感と能力を示した。リベラル派としては日本にとって貴重な人材だから今後も活躍してほしいが、自らの政治信条に基づいた政党の党首として活動する方がその力を発揮できると思う。枝野氏にとってもこれが一番良い。

 もう一人立役者をあげるとすれば若狭勝氏だ。元検事・弁護士としてマスコミで名を売ってから政治家になった人だがいまだに何を言いたいのか、何をしたいのかよく分からない人だ。要するに政治家としては影が薄い人で希望の党の中心人物になった今もそれは変わらない。しかしこの人の功績は小池氏が東京都知事選に出馬した時に自民党からただ公然と一人支持に回ったことである。彼の支持がなくても小池氏が勝ったのかもしれないが、小池氏にとってまるで孤立無援の状態よりはるかに心強かったはずだ。政治的センスなど皆無に思える若狭氏だがこの時は独特の嗅覚を発揮したのだろう。この人が日本の将来を左右する要職に就くとは思えないが、希望の党でそれなりのポジションを与えられても良いと思う。

 こうしたドタバタの結果、今回の選挙は保守対保守の構図になったといえる。保守対保守に何の意味があるのかという人もいるだろうが、何が何でも保守対革新が良いわけではない。経済も外交もとることが出来る手段は限られているし、現実を正しく見ようとすれば自民党の政策から全く離れた政策をとることなどできないはずだ。しかし権力は腐敗するというように、政権を持っている政党が民意から離れた行動をとる時に、それに代わりとなる保守政党が存在する必要はある。

 もう一つ付け加えるとすれば民進党の数少ない存在意義を残してほしいという点だ。民進党の存在意義とは世襲政治家が少ないことだ。自民党にも世襲ではない議員もいるが要職は当然のように名門政治家の一族か、それに準ずるような政治家・官僚の子弟で占められている。もちろん政治家一族の出であることが一概にいけないと言っているのではなく、要は人物次第である。しかし現在の自民党の幹部は自分たちを江戸時代の将軍や大名のような立場にして、その体制を確立し強化しようとしている感さえある。これが政界だけではなく社会全体を覆っている現在の閉そく感の元になっているのではないか。そんな中で上記の政治家たちは庶民の出であるとか、経済的に苦労した過去を持っている。こうした人たちも政治家として活躍できることが社会に活力を与えるのは明らかだ。その意味でも希望の党には(立憲民主党にも)存在意義がある。政策立案能力や実行力を考えると自民党以外の選択肢は考えにくいのが現実だが、ここは野党にも頑張ってほしいところだ。特に希望の党に吹いている風は選挙日までには弱まってしまう感じがしているだけに、希望の党が責任ある現実的な政策を提示して議論していってほしいと思う。