自民党は石破氏に感謝すべきだ

 自民党総裁選は予想通り安倍首相と石破元幹事長の一騎打ちとなった。安倍首相が圧勝するというのが現時点での見方で勝利に疑問はない。大方の関心は石破氏がどこまで善戦するかになっていて、それなりの善戦なら自民党員の中にもかなりの安倍批判があること示すことになり、今後に何らかの影響をあたえる可能性がある。

 石破氏はソフトな物言い、ロジカルな議論、高い政策立案能力などで自民党では極めて評価の高い政治家だ。一方で政権トップの安倍、麻生両氏からは疎まれているといわれ、他の自民党政治家からの人気も高くない。言わば能力のある男だが党内では嫌われ者だというところだろう。安倍、麻生氏に嫌われているのは過去に何度も両氏を批判してきたからなので分かりやすい。その背景には石破氏の側に安倍、麻生より能力的に勝っていると思っていることがあるようだ。実際三氏の発言を比べるとその通りだと思えることも多く、安倍首相が石破氏との討論を避けているといわれるのは、安倍氏側にも石破氏と討論すると不利になるとの思いがあるからだといわれている。また理屈っぽくて徒党を組むことに熱心ではないためか石破氏は他の自民党代議士にも人気がない。過去に党の方針に合わないと離党したことなども、自民一筋を貫き派閥のボスに忠誠を示してやってゆく、昔ながらのやり方で生きてきた政治家からは嫌われる原因になっているらしい。

 石破氏はバリバリの保守だが、体質的には野党的な要素を持っていて、旧民主党の野田、岡田、前原氏などと似通ったところがある。だから親分、ボス、おやじが力を持つ自民党ではやや異質なのだろう。わたしもあの話し方や、物腰には感覚的にしっくりこないものを感じるのだが、現在の自民党の政治家の中では言っていることは極めてまともだし、安倍、麻生よりインテリジェンスを感じる。安倍政権の常道になっているまともな議論を避けて、強引に言い分を押し通すやり方はしないだろうと思えて(これだけでもとても重要だ)そこには好感を持っている。

 安倍氏周辺では過去のいきさつもあり今回の総裁選で石破氏を完膚なきまでに叩き潰し、再起不能にしたいようだ。石破氏が地方の党員票をそれなりに得ると発言力を維持して、安倍氏の今後の政権運営に影響を与える恐れがあるからその気持ちも分からないではない。しかし今回の総裁選に石破氏が立候補せずに安倍首相が無投票当選にでもなったら、または野田聖子氏などをダミーの候補者にして圧勝したりしたら、一般の有権者の失望を買い強い批判を受けるだろう。森友、加計での疑惑を指摘されながら不明瞭・不誠実な幕引きを図った安倍政権に対して、自民党にはモノ言える人物がいないし、自由闊達に真実を議論する雰囲気がないと駄目押しされるのは間違いない。

 それを避けることが出来たのは石破氏が圧倒的な不利にもかかわらず立候補して、首相の政治姿勢、政策を批判しているからだ。その意味で石破氏は自民党が苦境に陥ることから救ったといえる。彼を徹底的に叩き潰すなどは避けるべきだし、石破氏がそれなりの党員票を獲得した方が自民党の評価を高めることになる。自民党にもいろいろ問題はあるが、やはり懐が深い政党で野党とは違うと言われるだろう。

 総裁選の得票も気になるが総裁選後の石破氏の行動には注目だ。常識的にはポスト安倍を見据えた活動をしていくのだろうが、わたし個人としては彼を支持する自民党議員や良識的で保守の野党議員と新党を立ち上げ自民党の対抗勢力を作って欲しい。民主党が消滅して野党が全く力を持たなくなってしまった。安倍政権が傲慢な政治運営を続けているのも対抗勢力がいないからだ。2大政党が必要なのは外国を見ても明らかだ。石破氏が自民党に残ったとしても総理になれるかは疑問だ。小泉進次郎などが次を狙っている。もっとも岸田氏の線はまずない。もし彼が今回の総裁選に出ていたら、その後冷や飯を食ったとしても総理の可能性は少ないながら残ったろう。しかし出馬見送りで終わりだ。最近次回は出るなどと言ったそうだが、馬鹿じゃないかと思う。戦えない人間は最高司令官などにはなれない。石破氏には戦う意欲と気力がある。はるかに上等だ。