台風15号で月曜日のギターレッスンはお休みで、妻が友達と行く予定だった日帰り旅行はキャンセルになった。電車が走らず通勤の人は大変だったと思うが、退職者としてはもう他人ごとだ。庭の片づけを少ししてからテレビを観ていると韓国政治、特にチョ・グク氏のスキャンダルと文大統領が彼を法相に任命したことをこれでもかといった感じでやっていた。韓国の政治がこれだけワイドショーなどで取り上げられるのは異例で、最近の日韓関係の悪化に加えチョ・グク氏の華麗な経歴とハンサムな風貌からくるスター性がその理由なのは明白だ。TBSのひるおびの恵氏と他の出演者は慎重な言い回しをしているものの、エリートのチョ氏の疑惑を追及するのが嬉しくて仕方ない感じが出ていて少し冷静になったほうが良いように感じた。
文大統領のチョ氏の法相への強硬任命はこれから色々と追及されるのだと思うし、どうなるのか分からないが、この二人の態度を見ているとほぼ何が起ころうとこうするシナリオが出来ていたように感じる。文氏は彼が信じる正義のためならこのくらいのことを強行しても許されると信じているようだ。法相へ就くことが最後の使命だと聴聞会でも明言したチョ氏もこの措置は正しいと信じ、かつ文氏の次の大統領になることを確信しているようだった。しかしクリーンな政治、特に兵役逃れ、不動産投機、偽装転入、脱税、論文剽窃の5大不正の関連者は高位公職から排除すべきと訴えて大統領になった文氏が、そうした疑惑を追及されているチョ氏を極めて高い公職に登用したのは、普通に考えれば致命的な公約違反なはずだ。それを強行したのはチョ氏と二人で韓国の保守政治の流れを断ち切る、即ち保守勢力の力を削ぎ日米韓による安全保障の体制を変えようという強い意志の表れだと思える。こうすることで韓国の社会は平等で公正なものになると信じているのだろう。だからこれまで以上に日本には敵対姿勢をとるし、これまで以上に北朝鮮との統合と中国への歩み寄りの姿勢を見せるだろう。彼が政治信条を変えることは考えられないから、日韓の関係が今と変わるのは文政権が終わる時以外にはないと思う。
わたしは韓国政治のことは疎かったのだが、今回の件についてTVを見たり自分で調べたことでいろんなことを知った。文氏の両親は朝鮮戦争中に北朝鮮から逃れてきて、1953年に韓国で文氏を生んだ。文氏は貧しく育ったが幼い時から成績優秀で、ソウル大学に落ちたものの一年浪人して慶煕大学に入学した。4年間の全額奨学金があったからだと言われている。ここを首席で卒業後、司法試験に受かり1983年には司法研修所を2番で卒業したとある。しかし彼は過去に反政府デモを主導したとの理由で裁判官になれなかった。一言でいえば大変な秀才でかつ社会正義への情熱のある人物だった。こうした特徴は日本でも学生運動が盛んだった頃に運動の中心にいた人たちに似ている。疑惑のチョ氏も非常に優秀で普通より早く学校教育を受け、韓国一の名門ソウル大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校ロースクールで修士・博士をとりソウル大学の教授になったのだから文氏と通じ合うものがあるのだろう。
文氏で興味深いのは正義を求める気持ちとやり方がかたくななところだ。複雑な現実や過去の事実と自分の正義との折り合いをつけようとは思っていないようだ。自分の正義は唯一無二で決して譲れるものではないと信じている。こうした姿勢は国内では一定の支持は得られるだろうが、他国との交渉では摩擦は必至だ。他人が信じる正義についてもそれなりの敬意を払わないと物事は進まないからだ。まあ韓国の政治や外交はわたしには問題が大きすぎるのでこれ以上論じることは出来ないが、そうした文氏の北朝鮮への態度を見た時、わたしは素朴な疑問を持ってしまう。
上述したように文氏は北朝鮮との融和に積極的で、近い将来北と南を統合して日本より強い国家を作ると明言している。両親が北朝鮮の出身であることから北への思い入れが強いのは理解できる。しかし北朝鮮の政治体制は個人(金一族)の独裁体制であり、その社会は文氏が唱える平等とは正反対のものだ。金正日は大韓航空旅客機を爆破した張本人だし、その息子で現在の支配者である金正恩は、自らの体制を守るために叔父や実の兄を平気で殺す男だ。 一方で国民の多くは貧しいいままで食すら満足に得られない。また独裁者は核開発を続け近隣国を威圧しようとしている。こんな体制を容認して統合を図ろうとすることに文氏の正義感はどう折り合いをつけているのだろうか。文氏の正義感が正常なら、まず何とかして北の金体制をつぶし、その後統合を考えるのが自然だと思うのだが。ひょっとすると文氏は誰にも邪魔させずに自らのやり方で好き勝手に国を動かす金正恩を評価しているのだろうか。そう考えると文氏が今回チョ氏の法相任命を強行したこともなんとなく分かる。そしてもしそれが当たっていたら文大統領は相当に危険な人物と考えざるを得ない。
