癖になる音楽

 クルマに乗っている時はいつも音楽を聴く。音楽を聴くのは車に乗っている時だけだと言っては大げさだがそれに近い。車に乗るのは主にゴルフに行く時だ。横浜CCまでは高速を使うと25分、下道だと45分かかる。音楽を聴くには良い時間だ。帰りは一般道で帰ることが2回に1回くらいあるが、高速道路代の節約というより、好きな音楽を聴きながらその日のゴルフの反省をするためだ。
 
 CD50枚分くらいが車のmicroSDに入っている。元々持っていたCDから落としたものが多いが、前から気になっていたがじっくり聴いたことがないやつを買うことも結構ある。全体ではポップスが大半で洋楽が6割、邦楽が4割という感じだ。後はクラッシックと童謡が少々。元々持っていなくて新たに買ったプレーヤーの曲もたいてい気に入っているのだが、その中にすごく良いとは思わないのになぜか気になって癖になりそうな音楽がある。アルフィーの'Alfee Get Requests!'というやつだ。アルフィーの音楽をどう思うかと訊かれたら「ちょっとなぁ」と答えると思うのだが、車に乗っていてこのCDがかかるとほっとしたような懐かしい気持ちになってしまい、何故だろうかと不思議な気持ちになる。

 アルフィーの曲をきちっと聴いてみたのだが凄くいいなあという気はしない。詩は凡庸で使い古された表現が多く、英語がかなりの頻度で入る。(これは他の歌手にもあることだが) 曲も悪くはないが’どこかで聞いたぞ’という感じのものが多い。ニューミュージックと言われる分野で大物と言われるプレーヤーたちの曲は、まず詩がそれぞれの感覚に根差した独特な世界や感覚を表現して胸に迫ってくるし、曲もその人の体から湧いて出てきたような展開があり詩と見事に調和している。吉田拓郎井上陽水忌野清志郎松任谷(荒井)由実、中島みゆき等々みな自分自身の世界を作り出している。それらと比べると詩も曲もありきたりで、オリジナリティが乏しい。

 ドキッとしないが邪魔ではないというのが彼らの音楽のようだ。歌は上手いし(ベースの桜井賢が特に上手い)ハーモニーも洗練されている。またギターも上手い(特にアコースティックを弾く坂崎幸之助が凄い。高見沢のエレクトリックギターもセンスの良いフレーズを聴くがちょっとうるさいと思う)。要するに聴きやすいのだ。1960年代に大流行したグループサウンズの音楽が、アメリカやヨーロッパの音楽の影響を受けて洗練されたようだ。実際彼らは(特に坂崎と高見沢は)昔のヒット曲を歌うのが上手い。堺正章の’街の灯り’を聴いたがとても良かった。だから彼らの曲が車で流れていると心地よい。しかし家で歌詞カード見ながら聴くとそれほどでもないのだ。

 アルフィーのファンはアルフィーマニアと言って熱烈な人が多いらしい。ファンクラブに入るのも以前は会員の推薦が必要だったとのことだ。アルフィーの心地よい音楽が多くのファンを引き付けるのだろうが、アルフィーのメンバーの気さくな人柄も大きな要因だと思う。ニューミュージックやロックのスターたちの多くは一般大衆に迎合することを嫌い、本当に自分たちを理解してくれる(と思っている)人たちだけを相手にする態度をとる。しかもやや突っ張ったというか尊大な振る舞いをする。特に自分たちの音楽をよく理解しないで話題性だけで近寄ってくる大手マスコミ(特にテレビ)に対してはまともに対応しないしテレビの番組には出演しない。しかし本当は出たくて仕方ないのが大半だ。それに比べるとアルフィーは全く普通の態度でマスコミに接し、テレビの番組にも自然に顔を出す。まるで屈託がない。

 特に坂崎はテレビ通販の販売員をしたほうが良いのではと思う話術があるし、ギターの腕前を隠そうともせずにどこでも弾いてしまう。チョット奇抜で怪しい高見沢も構えた感じもなく音楽番組に出て歌ったりする。もちろんそれが彼らの音楽を売るためだという要素もあるだろうが、見ている方は人柄なのだろうと感じてしまう。だからこれだけ長い間多くのファンを維持しているのだろう。

 坂崎も高見沢もギターのコレクターとして有名だ。坂崎はアコースティックで高見沢はエレトリックだ。高見沢は500本以上所有し、そのための保管庫があるという。その中でもESPという会社のアーケインジェル(Archangel;大天使)というシリーズはステージで使われている。天使が彫られたロココ調のギターでド派手な奴だ。週刊誌のこの会社の宣伝には高見沢が出ている。彼は’気に入っている高価なギターはワインを飲みながら眺めていても楽しい’と言い、さらにこう続けている。「でもギターを今やろうと考えているなら、やった方がいいと思う。昔好きだった曲を弾くだけでも、その時の自分に戻れます」66歳でギターを再開したわたしなどは嬉しくなってしまう。ギターの広告のページだから売るためにそう言っているのだろうが、高見沢は本当にギターを弾く人が好きなんだと思わせるものがある。

 何故か癖になりそうな音楽をやるアルフィー、何十年も多くのファンを維持するアルフィーは、その音楽センスだけではなくキャラクターの魅力で人気を保ち続けている。