クラシックギターのコンサート

 10月6日(日曜)に’よこすか芸術劇場’でのギター・カルテット~福田進一と仲間たち~というコンサートに行ってきた。2週間近く前のことなので少し新鮮さには欠ける話題だが、印象に残ったコンサートなので書くことにした。

 クラッシックギターのコンサートは50年くらい前に日比谷公会堂で観た(聴いた)ナルシソ・イエペス以来のことだ。クラシック音楽への関心はあまり高くないが、ギターは自分でも少し弾くのでふと聴いてみたいと思ったのだ。タイトルにある福田進一氏と彼の弟子三人が出演した。福田氏はわたしが持っている’クラシック・ギターの魅力’というCDでヴィラ・ロボスやソルを弾いているので知っていたが、後の鈴木大介村治奏一、朴葵姫(パク・キョヒ)は村治奏一以外は初めて聞く名前だった。この4人がそれぞれソロを1曲ずつ弾き、デュエットが3曲、トリオが1曲、カルテットが2曲の全10曲を演奏した。

 コンサートのタイトルであるギター・カルテットは林そよかの「4つの海の物語」とビゼーの「カルメン組曲より」が演奏された。それぞれが前半と後半の最後の曲になっている。林そよかの曲は初めて聴くので綺麗な曲だと思いつつもあまり印象に残らなかった。一方で「カルメン組曲」の抜粋は最後の曲だし、あまりに有名なので客席も非常に盛り上がった。村治佳織(前記の奏一の姉)がソロで弾いたのを観た記憶があり、ギターアレンジでもそれなりの迫力があることに感心したが、4重奏となると演奏に厚みがある。有名オペラをギターでもやれますよといったところだが、ギターで再現するのは大変で、それを実現する高い技術には感動だ。

 

 わたしにとってもっとも印象深かったのは、福田、鈴木、村治の3人で演奏した「不良少年」という曲だ。これは羽仁進が監督した同名の映画のテーマ曲で武満徹が作曲したそうだ。有名な曲らしいのだがわたしは初めて聴いた。プログラムに武満徹の作品と書いてあったので、「ノベンバーステップス」のイメージが強いわたしはどんな曲なんだろうと思っていた。実際聴くとわたしが抱く武満のイメージからは離れた全く普通の曲で、大変美しいメロディーに驚いた。元々はギターデュオの曲として武満は書いたらしいが、当時では二人で演奏するのが難しかったのでトリオで弾いたそうだ。ギター曲としては傑作だと思った。

 

 コンサートでクラシックギターの演奏を聴いて感じたのは繊細な音色とそれを産み出す技術の高さ、そしてギター曲を弾くことの良さだ。もっとも福田氏がコンサートの始めに今日は会場が広いのでPAでやると説明していた。確かに大ホールで聴衆が1000人はいたと思う。多分ギターのボディ内部にピックアップをつけ、そこから音をマイクに飛ばし増幅したのだと思う。そうした機器が見えないようになっていたので、これに詳しくないわたしにははっきりしたことは言えない。そう言われると音が少し金属的な感じがしたようにも思えたが、これもクラシックギターの音色に詳しくないわたしにはよく分からなかった。というより十分繊細で美しく聞こえた。

 ギター曲を演奏する良さとは分かりにくい表現になってしまったが、ギターはギター用に作曲された曲を演奏するのがやはり良いという当たり前のようなことだ。わたしにはクラシックギターなどは歯が立たないしチャレンジする気もないので、ポピュラー曲をスティール弦のアコースティックギター(いわゆるアコギ)で弾く練習をしている。南澤大介や岡村明良がスタンダードの曲をギター用にアレンジした楽譜を使っている。クラシックギターに比べれば易しいが、才能のない素人にはそれでも難しい。ビートルズカーペンターズビリー・ジョエルエリック・クラプトンなどの洋曲からサザンオールスターズ中島みゆき井上陽水たちの日本の歌手の曲を練習するのだが、どうにか弾けてもお手本のCDを聴くとあまりに上手くて感心するよりがっかりする。また参考のために元の歌を聴くこともある。その時につくづく感じるのはこれらの曲は歌ってなんぼなんだなということだ。プロが有名なポピュラーソングをギター用に編曲して弾くのは凄いことなのだが、オリジナルの歌にはかなわない。そのくらい素晴らしいから大ヒットしてスタンダードになるのだろう。有名なポピュラー曲をギターでも弾けるよとアピール出来るが、歌えるならその方がいいのは間違いない。

 

  クラシックギター演奏にも上述のカルメンのように他のジャンルの名曲をアレンジしたのもあるが、多くはギター専用のオリジナルだ。ギターという楽器の特性を生かして作られたギター曲を演奏するより良いことはないと思う。もちろんポピュラーやボサノヴァ、ロックにもギター曲はあるし、ギター曲として大ヒットすることもあってそれらはやはり心に残るものがある。しかし有名なポピュラーソングをギターでやるのは相当な技術と音楽性がないと元歌で聞けばいいやとなってしまう。わたしのように歌は下手だし、ギターも上手くないのはまあ立場がないというところだ。身もふたもない話だが、それでもやはり練習して少しでも上手くなりたいと思うのは音楽が持つ魅力なのかもしれない。

 最後にもう一つ情報を。平野啓一郎の最新作「マチネの終わりに」は天才ギタリストと国際ジャーナリストの恋愛を描いた小説で、福山雅治石田ゆり子で映画化され11月に公開される。この主人公は福田進一氏がモデルだそうだ。平野氏と福田氏の対談によると二人はストックホルムで会って意気投合したそうだ。その時に聞いた福田氏の経歴、大学を中退してパリに留学し、パリ・エコールノルマル音楽院を首席で卒業。パリ国際ギターコンクールでグランプリをとり、世界中で演奏活動をしていることをヒントに小説書いたそうだ。福田氏は恋愛以外のところは大体彼が話したことと合っていると言っている。