松山、米国PGA4勝目への報道とコメント(2)

 松山の最近の強さを見ていると、彼が米国で初勝利を挙げた2014年のメモリアル・トーナメントでのニクラウスのコメントを思い出す。このトーナメントのホストであるニクラウスは会場のブースからトーナメントを観戦し続けた後、松山の勝利について次のように語った。「皆さんはこれから世界のトップゴルファーとして歩む選手の第一歩を見たのだと思う」これはスポーツ・イラストレイテドの上級記者ゲイリー・ヴァン・シックルが書いた記事「松山はゴルフの次世代のヤングスターになるだろうとニクラウスが言った」の中で紹介されたものだ。今更ながらニクラウスの慧眼には驚かされる。(詳細は2014年6月3日の当ブログを見てください)

 タイガーウッズ全盛の頃米国でプレーをし、ツアー3勝を挙げた丸山茂樹は松山の今回の勝利の後で「本物のスーパースターが生まれた。日本の誇りだ。メジャーに勝って、世界ランク一位になることも夢ではなくなった」という趣旨のコメントを出した。その丸山も松山がメモリアルで初勝利を挙げた時は、称賛しつつも「僕のPGA3勝を抜いてほしい」とコメントを出し、他のところでも「彼なら5−6勝は出来るのではないか」と語っていた。

 ニクラウスの言葉と比較すると違いが明白だ。絶賛しているのは帝王と呼ばれウッズと並んで史上最強のゴルファーと評価されるニクラウスの方なのだ。もっとも丸山はその後の松山の活躍を見てコメントを変えてきている。「僕の3勝を超えるなど彼には簡単だ」「松山にはK.J.チョイの8勝を超えてアジア最高になって欲しい」等々だが、今回ようやく年間5勝や世界ランク1位も夢ではないとか言い出した。最初の頃の丸山のコメントに疑問を感じていたわたしなどは、自分のPGA3勝が大変なことだと印象付けたいためにそんなコメントを出しているのかと考えてしまったくらいだ。しかし丸山も今や絶賛せざる得ないほどに松山の力と実績は凄くなったのだ。

 日本のプロゴルファーに対して意味もなく厳しいが、建設的でもなく文句を言うだけの記事を書く日刊ゲンダイ(ネット版)は「ハラハラの4勝目松山英樹の”慎重姿勢”をプロはどう見る」というタイトルの記事を流した。さすがゲンダイ、また何か難癖かと期待して読むとゲンダイの記事にしてはまっとうで試合経過を淡々と伝えている。タイトルにある慎重姿勢というのは、松山がラウンド後によく口にする自分のプレーに対する不満足感(要するに自分の期待値が高いのでそこそこの出来では不満だということ)のことだった。これについてのプロの見方として田原紘プロのコメント(この人一人だけ)が紹介されている。この人はアマチュア向けのレッスン番組をテレビで長くやったことで知られているが、プロゴルファーとして大きな実績がある人ではない。その人だけのコメントで済ませてこのタイトルだから凄いというほかはない。田原氏のコメントも松山の実力を認めたものだった。

 この記事の下には関連記事として日刊ゲンダイが書いた過去の記事が出ているのだが、それがとても面白いというかゲンダイらしい。2014年に松山が初優勝した時の記事でタイトルは「帝王ニクラスが呆れた松山英樹の'日本語優勝スピーチ'」というのがある。この記事はこう始まっている。「'なんだコイツは?っていうニクラスの表情に会場のみんなが凍りつきましたね'こう振り返るのは(略)松山英樹の記者会見に出席した米ツアー記者だ。というのも、松山は右横に座った通訳を介して'米ツアーに勝ててうれしい’と日本語でボソリと語り、ひな壇の左横にいたニクラスは'何を言ってんだ?’とチンプンカンプンで呆れ顔だったからだ」(記事はニクラスと表記している)  

 この記事と冒頭に紹介したニクラウスのコメントを比較してほしい。同じ場所でニクラウスは松山のプレーぶりを称賛して最大級の誉め言葉を送ったと、スポーツイラストレイテドの署名入りの記事が書いているのだ。日刊ゲンダイの記事は米ツアー記者の言葉だと書いているが、これが日本人の米ツアー担当記者なのか米国人記者なのかもわからないし、名前もわからないから確認のしようがない。要するに信用出来ない言葉と言われても仕方ないレベルのものだ。日刊ゲンダイの記事はニクラウスに敬意を表したスピーチを拙くても英語でやるべきだったのに、それをやらないので呆れられていたとなっている。米国に行って一年目の松山にそれを期待しても無理なのはわかっているのに、実在するかどうかも怪しい米ツアー記者の証言として呆れられたなどと書くのは、一年目から活躍した松山をいたずらにを貶めようとしているとしか言えないだろう。まあこうした記事はそれなりの気持ちで読むことだというしかない。しかしそのゲンダイも上記の記事では松山の強さを認め、訳のわからない中傷はしていない。それほど松山は強くなったということなのだ。

 松山の今後の活躍からは目が離せないが、石川遼にも頑張ってほしいと思う。平常心でプレー出来ればきっと優勝争いが出来るはずだからだ。丸山茂樹は石川は米ツアーでは通用しないと言っているがそんなことはないところを見せてほしい。丸山がまたコメントを変えてくるはずだから。