プロの言葉

 ゴルフチャンネルで’杉ちゃんが行く’というのを観ていたら、プロキャディの杉澤伸章が女子プロゴルファーの上田桃子と木戸愛とのトークをやっていた。その中で杉ちゃんが上田桃子に米国女子ツアーに参戦していた頃のことを訊いていた。上田は2008年から6年間米国でプレーしたが勝てずに2014年日本ツアーに復帰した。上田は’米国ツアーの選手とショットはあまり違わないが、パットは向こうの選手が全然上手い’と言っていた。これは他のプロも言っていて’日本選手との違いはショットよりもアプローチとパットにあるという’ 日本人ゴルファーが海外で活躍できないのは飛距離で劣るからだとよく言われるが、実際は小技のレベルが低いからだというのは面白い。たぶん海外の選手は練習環境が良いので、日本選手より小さい時からずっと多くのラウンド練習をするから小技が上手いのだろうという気がする。

 もっともその番組での会話でわたしが注目したのはこのことではなく、杉澤が上田に訊いたことへの答えである。懸命に米国で結果を出そうともがいていたその頃の自分に、日本に帰って3年になり日本ツアーでまた勝てた今、言葉をかけるとすれば何を言いたいかという質問である。上田はほんの少し考えてから「そのままガンガン行け」と言いますと答えた。この答えはわたしには意外で、経験を積んだ現在の彼女からは気持ちの持ち方とかスケジュールのたて方とかについてアドバイスをするだろうと考えていたからだ。わたしはすっかり感心し感動すらした。

 上田が米国で結果を出せない時どれだけ悩んだかは当人しか(または同じ苦労をした者しか)分からない。そして苦悩に打ち勝つには懸命にやり続けるしかないということを彼女は知っている。その場所で苦労したプロだからこそ言える言葉だと思った。上田の米国撤退についてプロゴルファーではない解説者があれこれ言うが、無責任な評論家には分からない真実を彼女はつかんでいると感じたのだ。


 同じようにプロの言葉が印象に残ったのは、今まさに行われている全英オープンの放送で解説をしている丸山秀樹が語ったことだ。日本人としては松山、池田、谷原、宮里の4選手が参加したが、日本ツアーの代表である池田、谷原、宮里は悪天候の中大たたきをして予選落ちをした。世界ランク2位の松山は3日目を終わり首位とは7打差だが5位につけ実力を発揮している。この状況にやはり解説をしている戸張捷(プロゴルファーではない解説者)は’日本ツアーからの3選手は枕を並べて討ち死にでしたね’とコメントをした。その時丸山は少し遠慮気味に’ただ彼らがプレーした時は天候が最もひどい時だったことは考えるべきだ’ということを言った。

 わたしもこの試合の前まで欧州ツアーのBMW選手権で3位、アイリッシュオープン10位と素晴らしい成績を上げていた谷原と最近海外での試合が増えた池田、宮里の3人がそろって悪いのに驚いていたので、丸山の言葉でこの3人のスタート時間が近かったことを思いだした。予選の2日間は最初に出る選手と最後の選手では9時間くらいの差があったと思う。急変する気候ではコンディションが全く違ってくるということを丸山は指摘した。もちろんゴルフとは元々そういう競技だし、プロは結果がすべての世界だから丸山は少し遠慮がちに言ったのだと思うが、単に不成績をなじるだけではなくこうした情報も提供するのがフェアなやり方だと思う。

 上田も今回の3選手も自分の成績については言い訳などしない。それはプロの精神に反するからだ。しかし彼らの成績や努力の裏に何があるかを伝える人がいることは大切だ。(上田については彼女の言葉を引き出した杉澤の質問が秀逸だ) 現場で戦うプロの言葉は重い。