石川遼が考える世界での戦い方

 何日か前の朝日新聞石川遼がおおよそ次のようなことを書いていた。'僕は日本で70%、海外で30%の割合で試合に出ている。このやり方で海外の大きな試合でトップ争いをしたいと考えている。海外のゴルフで活躍できないのは試合の雰囲気に慣れないとか、コースが難しいからと言われるが、そうは思わない。高い技術を持っていれば出来るはずだ。だから今年は海外で活躍して、今のやり方でも、海外で優勝争いが出来ることを後に続く選手たちに見せたいと思う' 今手元にその新聞がないので、正確には書けないが、こんな趣旨だったと思う。

 この記事は、石川が少なくともこの2-3年はどうやろうとしているかが分かる内容だった。私は石川が言っていることが間違っているとは思えない。たぶん正しいと思う。しかし石川がそれを証明してみせると言うのには、少し違和感を感じる。この発言は30-40年前の尾崎将司のものだとというなら良くわかる。石川が言うと今更それはないだろうと言いたくなる。

 石川も色々な経験を積み、世界の一流選手の力も肌で感じたなかで、どう戦ってゆくのが良いかと考えた末の結論なのだろう。彼が最もうまくいくと考えるやり方をとるのであろうから、人がとやかく言うことではない。しかし私たちの年代のゴルフファンからすると少し残念な気がする。


 今のやり方、日本の試合で活躍し、世界ランキングで上位に入るか、主催者の推薦を得て海外の試合に出るという方法は、過去青木、尾崎、中島と言った日本で最高のプレーヤー達ががとってきたやり方だ。(彼らの時は今のようなランキングはなかった)AONの三人はそのやり方で海外で活躍し、彼らの実力が世界でもひけをとらないことを既に証明している。もちろんメジャーでは勝てなかったし、PGAで勝ったのは青木の一回だけで、日本のトッププロと言えども、ニクラウス、ワトソン、ノーマン、ファルド、バレステロスなどの同時代の世界のトップと比べると大きな差があったが、それ以外の一流プロとは遜色がないと感じさせるものだった。青木が全米オープンでニクラウスと4日間同じ組で回り2位に食い込んだこと、中島が全英オープンで3日目終了時点でトップにたち、眠いのに最終日の中継をみたことなど忘れられない。

 AONの後でも、伊澤や片山のマスターズでの活躍は記憶に新しいし、日本のトップは海外でもやれる力があるのは既に多くのプロが示しているので、それは石川の役目ではないと思う。かつて私たちが知りたかったのはAONがその全盛期にUSPGAに参加したら、どれだけやれただろうかということだ。もちろん日本のようには勝てなかったことは間違いない。でも10勝かそれ以上は勝ったかもしれないと考えてしまう。

 USPGAはきわめて選手層が厚く、スーパースター以外にもAONを凌ぐような選手が相当数いる。そうした舞台をベースに戦うのは日本でやるのに比べ、遥かに苛酷で消耗するだろうが、日本のトップがそこでどれだけやれたのかというのは、非常に興味ある問いだ。日本なら不調の時でもそこそこの成績があげられるだろうが、アメリカだったらAONでも予選落ちがあるだろう。そうした苦難の中で戦ってこそ初めて真の実力が試されるのだと思う。AONはそこでも十分に活躍できる力があったろうと思わせたが、今になっては誰にもわからない。スポット参戦では見せた技術は決して海外の一流プロに劣るものではなかったというだけだ。青木は後年アメリカを舞台としたが、活躍はシニアツアーに移っていた。そこで青木は9勝を挙げその実力を示した。

 後年尾崎直道PGAに参戦し、長くシード権を持って活躍したがついに勝てなかった。彼はまだ全盛期に近い頃に挑戦したが、それでも日本ツアーと二足のわらじを履くといった感じがあった。田中秀道も同様に何年かシード権を維持したが結局勝てなかった。これらの事実は日本の一流プロがPGAにフル参戦しても勝つのは容易ではないことを示している。それ以外にも丸山大輔、横尾要、宮瀬博文達も参戦したが長続きはせず、ここでやれるのはAONクラスのプレーヤーだけかもしれないという思いを強くした。

 その後丸山茂樹が挑み、タイガーが全盛のころ、PGAで3勝した。片山晋呉が日本ツアーで25勝し永久シードを取ったが、丸山のPGA3勝はそれに劣らない快挙だと思う。丸山の活躍は日本のトッププロならPGAでも十分やれることを示したものだ。現在PGAでやっているのは今田竜二だけだ。彼は14歳からアメリカにいて全米のトップアマだったので、普通の日本のプロとは歩みが違うが、現時点ではただ一人の日本人PGAツアープロだ。2008年に初勝利をあげ、賞金ランキングで13位に入った彼でさえ、今年は調子が出ず今日の時点で5週連続の予選落ちだ。いかにPGAの選手層が厚く、そこでシードを取り続けるのが難しいかがよくわかる。

 こうして日本人プロゴルファーの海外挑戦を振り返ると、石川の'日本にベースを置いても海外で活躍できることを示す'という言葉に素直に納得できないのが分かると思う。石川の調子が絶好調で、運にも恵まれれば、今のやり方でPGAで勝つことやメジャーで勝つこともないとは言えない。しかし彼が本当の国際プレーヤーとして一流だと認められるのは、競争の熾烈なPGAかヨーロッパツアーでランキング上位に入ることによるのではないか。彼はまだ20歳である。これまでの日本のトッププロが出来なかった、全盛期になる前にPGAに参戦することが可能なところにいる。AONとは違う道を歩んでほしい。20年後に、石川が全盛期にアメリカかヨーロッパに挑戦していたらどれだけ勝てたのだろうか、といった問いをしたくはないものだ。

 一流の人間には与えられた使命のようなものがあると思う。石川の使命は、AONと同じやり方で彼らが出来なかったことを達成するのではないと思う。今の若い人は海外に行きたがらないという。それだけ日本が居心地がよく、そこで生きるのが快適なのだ。石川遼の使命はそんなことでは一流にはなれないぞ、最も厳しい道を歩んでこそ、世界のトップにゆけるのだということを示すことだと心から思う。