日本ゴルフ協会、岩田にペナルティの背景(1)

 日本ゴルフ協会(JGA)は岩田寛に、日本オープンにエントリーしながらキャンセルし、米国(PGA)の試合に出場したことに対してペナルティを課したと報じられた。具体的にはJGA主催試合への2年間の出場停止ということだが、岩田が日本オープンをキャンセルした経緯を考えると重い ペナルティを課した決定には違和感を覚えるし、ペナルティの内容も納得がいくものではない。

 まず岩田が日本オープンに出なかった経緯に触れておこう。今年の日本オープンは9月18日がエントリー期限で、岩田はこれを守ってエントリーをした。一方で岩田は9月10日からの米国のウェブドットコム・ツアー最終シリーズに参加した。ウェブドットコム・ツアーとは米国PGAの下部ツアーで、この最終シリーズ4試合には1年間の成績上位者とその他の資格保持者が参加できる。ここで上位の選手は(合計で20-30人くらいだと思う)米国ゴルフツアーのシード選手の資格を得て、今年の10月から始まる2015-2016ツアーの試合に参加できる。岩田は昨年のゴルフ世界選手権シリーズのHSBC上海大会で3位に入ったり、今年の全米オープンでも21位に入るなどしてこのシリーズへの参加資格を得た。そしてここで上位に入り米国PGAのシード選手の資格を手にしたのである。

 岩田は2015-16ツアーの初戦である10月15日からのフライズドットコム・オープンへの参加を決めた。この試合は日本オープンと日程が重なるため彼は日本オープンをキャンセルしたが、日本ゴルフ協会はこれに怒り上記のペナルティを課したというわけだ。日本ゴルフ協会は自らが主催する日本最高のゴルフ大会を袖にされ、メンツを潰されたと怒ったのだろう。しかし第三者から見るとそれほど怒るほどのことかという感じがする。というのは日本の男子プロが海外に出たがらないから、そのレベルが米国や欧州と比較して(韓国と比較してもそうだ)低いと何度も言われているからだ。その意味で岩田が米国PGAツアーのシード権を松山、石川に次いで獲得したのは素晴らしいことで、日本のゴルフ関係者はこれを応援するのが当たり前だろうと感じる。こうした動きは長い目で見て日本のゴルフ界のレベルの向上につながるはずだからである。実際岩田の米国ツアー参戦を聞いた若いプロゴルファー達はそれに続きたいと発言しているのだ。

 日本ゴルフ協会の決定は日本のプロゴルフの長期的なレベル向上より、今年の日本オープンのそろばん勘定を優先させたように見える。ただ話はもう少し複雑で、この決定の背景には日本のゴルフ界における組織とトーナメント主催にかかわる問題があるような気がする。

 岩田へのペナルティについて考えてみると、その内容は日本ゴルフ協会が主催する試合への2年間の出場停止ということだが、岩田は2年間日本のゴルフの試合には全く出ることができないのかというとそうではない。日本ゴルフ協会が主催するのは日本オープンを含めた2試合だけだからだ。本来日本ゴルフ協会は日本のアマチュア・ゴルフを統括している組織だ。しかし日本オープンとアジアパシフィック選手権・ダイアモンドカップの2つのプロトーナメントを主催している。アマチュアゴルフを統括しているならプロのトーナメントを主催しなくても良いと思うのだが、いろんな経緯からこうなっているようだ。わたしなどにはその歴史的経緯などは分からないが、この2試合が日本ゴルフ協会の貴重な収入源になっているのではと想像してしまうし、そう考えると日本オープン不参加への協会の怒りやペナルティも腑に落ちてくる。

 協会の立場を考えると岩田に何らかのペナルティを与えることは理解できなくはないが、この2試合に2年間出場停止というのはペナルティの内容としてはどうなのだろう。わたしなら罰金くらいにする。岩田には世界選手権シリーズや全米オープンで活躍したように、ひょっとするとツアーで勝つことやメジャーで大活躍する可能性があるからだ。少なくとも今の石川よりは期待が持てるように思う。もし岩田が米国ツアーで良い成績を収めたら日本のファンは日本の試合で彼のプレーを見たいと思うはずだ。それが日本最高の大会である日本オープンならこれ以上の舞台はない。日本ゴルフ協会は自らその可能性を閉ざしてしまったのだ。もしかしたら岩田など米国で通用しないと思っているのかもしれないが、そうだとしたらそれはそれで選手が大舞台で飛躍をするのを願っていないと言われるだろう。どうも後先考えずに怒りに任せて岩田への制裁を決めてしまったような気がする。意思決定に伴う様々な可能性やリスクを冷静に評価しているとは思えず、日本ゴルフ協会には日本のゴルフレベルの向上などは荷が重い仕事のようだ。

 それでは日本の男子プロツアーを主催しているのはどこかいうことになるのだが、日本のゴルフ界の組織とトーナメントの主催に関しては中々複雑だ。わたしもなんで今のようになっているのかよく分からない。そのあたりについては次回触れたい。