日本ゴルフ協会 岩田にペナルティの背景(2)

 前回の当ブログで日本ゴルフ協会が岩田寛に必要以上に重いと思われるペナルティを課した背景には、アマチュアゴルフを統括する日本ゴルフ協会(JGA)がなぜかプロトーナメントを主催していること、そして主催するのは年間2試合しかないことが微妙に影響を与えているようだと書いた。特にその内の一試合が日本最高の試合でかつJGAの重要な収入源である日本オープンだということで、これを袖にしたことに対して、我々が考える以上のペナルティになったのではないかと推測したのだ。岩田が世界最高峰の米国PGAのツアー資格を得て米国の試合に出場したことがキャンセルの理由だと思うと、わたしのようなゴルフファンは米国で頑張ろうという岩田を応援するのが当然と考えているので、それに反するようなJGAの決定に違和感を覚えたのだ。

 今回は日本ゴルフ協会(JGA)の上記の対応の根っこにあると思われる日本の男子プロゴルフツアーの主催問題を考えてみたい。男子のゴルフトーナメントを主催しているのはどんな組織なのか、そしてJGA以外の日本のゴルフ団体にはどんなものがあり、それぞれどんな役割を果たしているのかについて書きたいと思う。日本の男子ゴルフの試合は今年間25試合くらいあるが、その大半を主催するのは日本ゴルフツアー機構(JGTO)という団体である。この団体が日本の男子プロゴルフツアーのほとんどの試合を主催している。ここの会長は元NHK会長の海老沢勝二池田勇太が会長をしているゴルフツアーの選手会もJGTO下の組織である。

 しかし試合を主催するといっても大半はスポンサー企業が広告代理店と組んでトーナメントを運営しているので、日本ゴルフツアー機構(JGTO)は出場する選手の所属団体でしかないのだそうだ。唯一JGTOが自ら大会を運営しているのは日本ゴルフツアー選手権だけだという。従ってJGTOの仕事はスポンサーが後援をやめないようにご機嫌取りをするか新しいスポンサーを見つけてくることになる。だから企業が男子ゴルフは魅力がない、スポンサーとして金を出すには費用対効果が小さいと判断すれば離れていき、プロゴルフの試合は減っていくことになる。青木、尾崎、中島(AON)が大活躍していた頃は年間40試合くらいあったのが、今25試合というのは企業にとって男子ゴルフのスポンサーが魅力がないことを証明している。まあスターがいないというのがその最大の原因だが、JGTO自体にも問題はあるようだ。

 JGTOも少し前には岩田にペナルティを課したJGAを批判できないようなことをしている。それは松山英樹に対しての制裁である。松山は日本でのプロ転向1年目の2013年に賞金王になった。日本の賞金王になると5年間のシード権が与えられるのだが、翌年の米国PGAツアーのシード権をとった松山は2014年から米国を主戦場としメモリアルで初勝利を挙げた。しかし2014年の3月、日本の男子ツアー開幕の直前にシード権保持者に年間5試合の出場義務を決定し、これに違反した場合はペナルティを課すことにした。米国ツアーに参加している松山は2014年にこの条件をクリア出来ず制裁金100万円を払い、2015年についてはシーズンに入る前に日本のツアーメンバー登録を諦めた。米国での試合に出ながら日本で5試合に出るのは困難だからである。これにより松山は日本ツアーのシード権を放棄したことになる。

 2013年までは上述の出場義務はなかったのに、JGTOが唐突にこうした規定を作ったのは米国ツアーに参加している松山と石川に日本のツアーに出場させて、男子ツアーの人気をあげようとしたからである。JGTOも松山と石川なくしては日本ツアーの魅力がないことを認め、スポンサーやファンを呼び込むために新たな規定を作りこの人気者の2選手に最低5試合の参加を求めたのだ。そこには人気者を自分の都合で利用しようと思うだけで、彼らが米国で思い切り力を出せるようにバックアップするという発想はない。わたし達ゴルフファンは松山や石川が世界最高峰の米国PGAで活躍すること、出来ればメジャートーナメントで勝って欲しいと願っているのだが、ツアープロを統括する団体であるJGTOにはまったくそんな考えはないようなのが悲しい。JGAの岩田に対する制裁と根は同じである。特に疑問なのは仲間のプロゴルファーたちが唐突にそんな規定を作るのはおかしいと言わなかったことだ。これでは強くて才能があるものへの妬みと言われても仕方ないだろう。

 日本の男子ツアーを主催するJGTOがこんな体質では男子ツアーが衰退するのもやむを得ない気がする。スターがいないからと言い訳しているのはJGTOそのもので、松山、石川に頼らずに真剣に事態の打開をしようとしているとは思えない。今のままではこれから有望選手が出てきても皆米国か欧州に行ってしまい、日本ツアーは今よりもっと各落ちしたマイナーツアーになってしまうだろう。米国、欧州、アジアツアーなどと今以上に共催の試合を増やしてツアーの中身を良いものにしなくてはならないと思うのだがその歩みは遅く、中国等に追い越されてしまうリスクさえある。JGTOの幹部に将来を見据えた戦略を練る能力のある幹部がおらず、現在のスポンサーにおもねり、人気選手に試合への出場を無理強いするくらいしか考えつかないのだろう。

 そして日本のゴルフ界が複雑なのは、上述した2団体の他に日本プロゴルフ協会(PGA)というのがあることだ。PGAはプロゴルファーを統括する団体ということで、トーナメントプロ(TP)とティーチングプロ(TCP)資格の試験をしてそれを与える役割を持っている。しかしややこしいのはPGAからトーナメントプロ(TP)の資格を得てもJGTOが主催するトーナメントに出場する資格はないことだ。PGAが主催している日本プロゴルフ選手権には出場可能だがPGAが主催するのはこの1試合だけである。JGTOのメンバーになるには細かい条件を除いて大雑把に言うと、JGTOが主催するQT(クオリファイング・トーナメント)の2nd セッションを勝ち抜くことが必要で、その後の最終セッションで上位に入ると翌年のツアーに参加できることになる。従って日本の男子ツアーのシード選手になるにはPGAが与えるTPの資格はいらないのだ。何故こんなにややこしい状態なのかはよく分からないが、元々PGAがツアーを主催していたのが、1999年にJGTOが立ち上がりツアーを主催するようになったいきさつを考えると、従来のPGAの運営に疑問を持ったプロゴルファーが立ち上がり分裂したのだと思う。もっとも簡単に想像できる理由は金の使い道か分配の方法でのゴタゴタだろう。しかしPGAはその後も組織として存続し、ツアーの主催以外の権利を保持しているということだ。

 この日本プロゴルフ協会(PGA)は上記のトーナメントに加え、シニアツアーを主催しており、これらが資格試験と認定による収入と共に財源になっているようだ。PGAが財政的に生き残れるためにシニア・ツアーの主催権を与えたと思われる。いずれにしろ日本の男子のプロゴルフはこうした状態で低迷を続けているのである。もっと組織的にすっきりして、トーナメントツアーの主催も一元化しないと責任を持ってツアーを改革して魅力あるものにはできないと思う。しかし上述のようにJGTOとJGAがやっていることはお粗末なばかりだ。JGAの岩田への制裁の背景にはこうした問題が横たわっている。