オリンピックにゴルフ復活

 リオデジャネイロのオリンピックで112年振りにゴルフが復活する。タイガー・ウッズがツアー競技から遠ざかりゴルフ人気に陰りが出てきている今、挽回のチャンスとばかりゴルフ関係者はその成功におおきな期待をよせている。オリンピックの関係者もゴルフの一流プロが出たら大会全体の盛り上がりにつながると考えているはずだ。これについては両社の思惑が一致したと言える。

 しかし事態はそう簡単ではなく、男子のトッププロたちが参加に二の足を踏んでいる。メジャー優勝経験者のA・スコットやウーストハイゼン、シュワルツェルなどは早々に不参加の意思を表明していたし、最近では現在世界ランク1位のジェイソン・デイも欠場するかもしれないと報道されている。日本人では世界ランク15位の松山英樹も参加を迷っていると言われる。

 トッププロたちが参加に積極的ではない理由は2つあると言われている。一つは日程の問題である。男子ツアーは6月と7月に全米オープン全英オープン、全米プロを行い、予定だと8月11日からオリンピックのゴルフが始まる。ビッグトーナメントが続いた後は9月からは米国PGAの年間チャンピオンを決めるプレーオフ・シリーズがが始まる。オリンピックがある8月は調整の時期として極めて重要だというのは理解できる。

 もう一つの理由はジカ熱感染の恐れだ。ジカ熱そのものは重篤な事態を引き起こすリスクは低いらしいが、感染すれば完治に4週間はかかるという。予防薬もワクチンもない状況だと、蚊にさされてかかるかどうかは運次第といったところだ。試合のスケジュールが組んであるトッププロにとって万一感染したら今年の成績に重大な影響を与える。ゴルフは木や草が多い場所で4−5時間かけて競技を行う。また激しい動きの時間は少なくほとんどは歩いているか、ショットやパットの前に立っている。つまり蚊に刺されるリスクはほかの競技に比べ圧倒的に高いと言える。プロたちが参加に消極的なのが分かると思う。

 早々と不参加を表明したアダム・スコットに対してはオーストラリアのオリンピック関係者から名誉より金を優先していると言った厳しい批判が起こっているそうだ。国のためになんとしても多くの金メダルをと願っている人たちはそう考えるのだろうが、もしアダムがジカ熱に感染したといっても批判している人たちが何かの保証をしてくれるわけではない。トッププロにとって一番大切なのは試合で最高のパフォーマンスをあげることで、そのために慎重に試合のスケジュールを決める。そのプロセスでオリンピックを辞退したとしてもやむをえない気がする。

 そもそもオリンピックはアマチュアスポーツの祭典とされてきたので、早くからプロ化が進み人気のあるスポーツとは相いれないところがある。もっともアマの最高の競技大会といっても、旧共産主義国などにはステートアマのように競技の成績で地位や収入が得られる選手が沢山いたから、オリンピックが本当にアマチュアの戦いとは言えなかった。だから近年プロの参加を認めてプロアマ問わず世界一を争う競技会の性格を強めてきたのだ。一方で早くからプロ化が進んだ人気スポーツは、それぞれの分野で最高の戦いを作り歴史を刻んできた。テニスのメジャートーナメントやサッカーのワールドカップはその例で、それらの競技がオリンピックで行われてもその位置づけはもともとの競技におけるビッグトーナメントより低いものだった。そして同じことが今年復活したゴルフにも言える。だからオリンピックに復活したのだからトッププロはぜひとも参加せよというのは、ゴルフの事情を知らない人たちの言い分で説得力は乏しい。

 オリンピックに価値を見出しいろんなリスクを承知で参加したいというプロゴルファーは頑張ってほしいが、そうでない人にまで参加を無理強いするのは反対だ。オリンピックの位置づけがメジャートーナメントに劣らないくらいになれば大半のトッププロが自ずと参加すると思う。トッププロは金よりもそうした名誉にとても敏感だからだ。ゴルフ関係者、オリンピック関係者は試合のスケジュールも含めてオリンピックにおけるゴルフの存在意義を訴える努力をすべきだ。そうすればジカ熱の心配のない東京大会ではゴルフに参加するトッププロはきっともっと増えるはずだ。