横峯さくらと石川遼

 横峯さくら石川遼は男女の違いはあれ、ともに日本でトップゴルファーになり、いま米国のツアーに参加している。似たような境遇にいる二人だが米国ツアーに参加するまでの経緯は違う。石川が日本で活躍している時から米国ツアーで勝つことを目標にしていたのに対し、横峯は時々スポット参戦はしたものの、米国ツアーには強い興味を示していなかった。日本でやっている時から石川は自信満々で、’米国ツアーで10年間100位くらいにいてシード権をとっても意味がない。優勝してこそ意味がある’と公言し、すぐに優勝すると息巻いていた。世界一競争の厳しい米国ツアーで勝つのはそれこそ10年間シードをとることの延長にあることすら考えもしなかったようだ。(もっとも当時19か20歳の若者にすぎない石川には、まるで世の中が見えていなかったのだろうから、しかたないと言えばしかたないのかもしれない)

 一方で横峯はスポーツトレーナーの森川氏と結婚して以来、考えを変えて米国に挑戦することにした。昨年の全米女子オープンでトップ10に入ったことなどで自信を持ったということもあると思うが、やはりパートナーに感化されより厳しい舞台でチャレンジすることの重要性を理解したのだろう。こうした考えの変化に対して厳しい意見を言う人も多いし、またサッカー留学をしてからスポーツトレーナーになった森川氏に対してサッカーでの実績がないことを理由にいかがわしい人なのではないかといった意見もあるが、わたしは宮里藍と並んで日本女子ゴルフ界のトップにいた横峯が最高峰の舞台に挑戦することは意味があるし、横峯の成長だと考えている。森川氏に対しても悪い印象はなく横峯が良い結果を出せるようにサポート出来たら凄いと思っている。

 その横峯は昨年米国女子ゴルフツアー資格取得の最終予選トーナメントで8位に入りツアーメンバーになったのだが、新人扱いのため全ての試合には出ることが出来ず、有力な試合には月曜日におこなわれる予選会で上位に入らなくてはならなかった。そして出場した最初の3試合は連続して予選落ちとなった。ゴルフ評論家の宮崎紘一氏は「基本的に考えが甘い。こうなることは初めから分かっていた」などと厳しいコメントをしていた。一方で同じツアーメンバーの宮里藍は「少し慣れてくれば、きっと4月くらいには軽く予選なんか通ると思いますよ」と言っていた。

 横峯は4試合目に出場したキア・クラシックで8位に入り、翌週のメジャー初戦となるANA Inspirationの出場権を取りそこで44位に入り、次のロッテ・チャンピオンシップでは41位、その翌週のスウィンギング・スカート・クラシックではマンデーの予選から勝ち上がって出場権を得ると11位に入った。米国ツアーに5人いる日本人女子ゴルファーの中でも最近は最も良い成績を収めている。ゴルフ評論家の意見など見当違いでやはり同業の宮里藍の見方は鋭いと言えるようだ。

 横峯のスイングは変則的でバックスイングがとても大きい。体の小さな彼女が飛距離を出すために身につけた変則スイングで、プロ入り当時は多くの評論家たちがもっと普通のスイングに直すべきだと主張していた。しかし彼女はそのスイングを変えずに日本で23勝して(この数字は現役の日本人女子ゴルファーのダントツである。不動裕理は通算50勝の凄い記録をもっているがもはや峠を過ぎている)外野を黙らせた。横峯はまったくスイングを変えずに米国に乗り込み徐々に頭角を現している。このところの試合で2度も最終組で回ったことで米国のゴルフ番組でも話題になり、そのスイングは‘ジョン・デーリー′のようだと評された。(デーリーは今年49歳になるプロゴルファーで、25歳の時米国ツアーでの初優勝をメジャーの全米プロであげて一躍スターになった。タイガーを凌ぐ飛ばし屋で、その4年後には全英オープンも制した。大変人気のあるゴルファーだが酒による失敗が多く、離婚と結婚を繰り返すなど生活破綻者ともいえるが、その100キロを超える体型を含め今でも多くのファンに愛されている。彼はその飛距離にふさわしいオーバースイングで有名だが、体重50キロの横峯のスイングがデーリーに似ていると言われたのだ)

 この横峯の変わらなさはある意味でとても凄いことで彼女の強みとも言えると思う。やはり日本でトッププロになった上田桃子有村智恵が米国で思うような成績を上げられなかった(上田は日本でプレーしているが有村はまだ米国の下部ツアーで頑張っている)のは、彼女たちが強豪や飛ばし屋の中で自分を見失ったことが大きいような気がする。自分より上手い選手たちを見るとスイングを変えて少しでも近づこうとしがちだ。石川遼にも同じ事が言えるのではないか。

 石川は米国男子ゴルフツアーで苦戦中しており、彼がそれだけでは意味がないと言っていたシード権をとることすら危うい状況だ。わたしは石川は必ず米国ツアーでも勝てるポテンシャルがあると思っているが、今の状況ではそれも難しい気がする。わたしのような素人から見ても彼は自分を見失っているようで、必要以上にスイングを変えようとしたりクラブを微調整したりしている。スイングを変えたりクラブのバランスを変えたりした時はとてもいい具合だと言っているのに、試合で結果が出ないとまた元に戻そうとしたりする。迷路に迷い込んでどちらに行けば良いのか分からなくなっているようだ。変にスイングをいじるより元々の自分のスイングに磨きをかけて安定度を増したほうが良い結果を挙げられると思う。それは決して100位でシード権をとることを目指しているわけではなく、そのプロセスの向こうに勝利があると信じていくやり方なのだと気付いて欲しい。彼にはちやほやする取り巻きではなく、技術、メンタルのそれぞれを指導できるコーチ達が必要だと思う。石川には横峯があの変わらないスイングのまま自然体でツアーで活躍するのを見て学んで欲しいとつくづく思う。