松山英樹米国PGA初勝利

 松山英樹がPGAのメモリアル・トーナメントで優勝した。2013年に日本でプロに転向した年にいきなり賞金王になったが、今度は米国PGAのツアーメンバーになったその年に世界最高峰のツアーで初勝利を挙げた。しかもジャック・ニクラウスが設計したコースで行われる、ニクラウスにちなんだビッグトーナメントである。その実力、勝負強さ、強運どれもがスーパースターのポテンシャルを感じさせる。大会ホストとしてブースから試合を見つめたニクラウスが、松山の優勝に'皆さんはこれから世界のトップゴルファーとして歩む選手の第一歩を見たんだと思う’と語ったのだから凄いことだ。

 アメリカのゴルフジャーナリズムは日本のように情緒的でなく、シビアな面もあるし数字の分析も鋭く中々面白いのだが、ゲイリー・ヴァン・シックル(Gary Van Sickle)というスポーツ・イラストレイテドの上級記者は'松山英樹はメモリアルの勝利の後でゴルフの次世代のヤングスターになるだろうとニクラウスが言っている’というタイトルの記事を書き、上記の言葉はそこで紹介された。彼の記事は以下のように始まっている。

 ’現代においては常に大急ぎで結論や判断を求められる。タイガー・ウッズが現れるとすぐに次のタイガーは誰だと容赦なく探し始める。腰の手術からの回復を待っているタイガー・ウッズはもはやタイガー・ウッズではないとなると、次のスーパースターを見つけることがまた熱を帯びてくる’
 シックル記者はジョーダン・スピースがその有力候補だと言っているが、まだ二十歳の彼をそう呼ぶのは早すぎるだろうと言う。そしてニクラウスは松山がその候補だと言ってると紹介している。

 ニクラウスが松山に注目しているのは今回勝ったからではなく、昨年このコ−スでプレジデント・カップが行われた時に非アメリカ代表で松山が出て活躍したからでもなく、それ以前からだという。ニクラウスが特に気に入っているのが松山のテンポだそうだ。プレーするテンポが素晴らしい上に落ち着きがあると言っている。この記事は以下の文章で終わっている。
 ’松山は22歳でPGAで初勝利を挙げた。ニクラウスが初めて勝ったのと同じ年齢である。偶然だろうか? 10年後に確かめよう’


 他に松山とニクラウスの類似点を指摘した記事もある。グレッグ・ステインバーグというスポーツ心理学者が書いた'メンタル・ゲーム'という記事である。この人によるとスポーツ心理学者は指導をしているゴルファーに対して状況に反応し続ける(reactive)ように教えるのが普通だという。パッティングであれば、ホールを見た後に目でボールまでの道筋をつけ、ボールを打つイメージがわいた瞬間にバックスイングを始めるように教える。要するにボールに対して何らかの動作を続けることで、脳が固まってしまうのを防ぐというのだ。アーロン・バデリーやデービス・ラブ三世などはこれを完ぺきに行うという。

 しかし松山のプレーは遅く几帳面に同じやり方を守る(slow and methodical)ものだそうだ。彼は自分が納得して十分な準備が出来たと思うまではパターを構えない。彼がバデリー達のようにボールに反応しながらパターを打つとするととてもあわただしく感じるだろうという。どちらがいいというわけではなく自分に合ったやり方があるのだそうだ。アマチュアゴルファーもどちらが自分に合った方法かチェックしてみるべきだと言っている。そしてあのニクラウスも遅くて几帳面に同じやり方を守るゴルファーの代表(poster boy)だと言っている。

 最初の記事でニクラウスが松山のテンポが素晴らしいと言っていた理由が分かるような気がする。