世界地図帳から学ぶこと

 今年の春ころグローバルマップルという世界地図帳を買った。ソフトカバーの170ページほどのA4サイズの本で、いわゆるごつい地図帳と違って使いやすいのが利点だ。なぜ地図帳を買ったかというと世界地理の知識が乏しいからだ。退職後世界のいろんな場所を訪れたが、その場所と周辺地域の知識が乏しく、出発前に「地球の歩き方」を読む程度で対応してきた。しかし昨年南部アフリカ、今年は北欧4国を旅した時に感じたのが、国々の位置関係や一国の中での主要都市の場所などの知識があまりに雑だということだった。地図帳を折に触れてひもとくといろんな発見や確認が出来てとても面白い。

 地図帳が役立つのは旅行だけではなく、本を読む時もそうだ。今年読んだ本でとても面白かったのに「石油の帝国、エクソンモービルアメリカのスーパーパワー」(スティーブ・コール著)があるが、この本などは地図帳を横に置いて読むことで一層理解が深まったように思う。エクソンモービルが石油開発を行う国での活動を中心に、同社と米国政府(大統領、副大統領)との関係や操業を行う国の政府首脳との交渉を描いており映画を観るような迫力がある。

 石油開発は過酷な環境の場所で行われるのが大半である上に、そうした場所の多くは独裁者が大衆を搾取していて、西欧的な価値観や倫理観とは異なる判断基準で物事が決まってゆく。わたしは同社(エクソン)の日本子会社に34年勤めたが、精製販売のダウンストリームのビジネスがほとんどで、エクソンの中心であるアップストリームのスケールは全く違うとあらためて感じた。

 この本に紹介されているエクソンモービルの活動地域は、アチェ(インドネシア)、赤道ギニア、中東諸国(カタールサウジアラビアイラクイスラエル、ヨルダン)、ロシア、チャド、スーダンベネズエラ、ナイジェリア、アルバータ(カナダ)などがあり、ガソリンステーションの漏油問題が起こった場所として米国のボルチモアも出てくる。

 もちろんこの本にも地図が示されているが、地図帳で周辺の国々も見ながら読むと広い視野で考えられる気がする。こうした国々の位置や周辺国の知識を持っている人はどのくらいいるのだろうか?意外にわたしが無知なだけで多くの人は正確な知識を持っているような気もするが、よくわからない。いずれにしろ世界的に活動する超大企業とは、こうした国々で全く違う判断基準を持った人達を相手に、コンプライアンスや自社の倫理基準とのバランスをとりながらビジネスを行っているのだと思う。

 安倍総理はグローバル人材の育成を国家の目標としており、それは正しいと思うが、グローバルという言葉で多くの日本人が考えるのは、西欧諸国とアジアの国々とどう付き合ってゆくか、そしてそれができる人材を育成することだとなるのではないだろうか。そして今の若い人の多くはそうした国々への赴任もあまり好まないと言われる。それを考えるとグローバル人材の育成と言って英語や文化を学ぶのは必要だとしても、それでは全く不十分な気がする。もっと広い視野で世界を見てエクソンモービルが活動するような地域にもチャレンジする精神力、体力、ガッツなどを植え付ける教育がより重要なのではないだろうか。

 エネルギーもITも資金でも日本の先を行く米国の大企業が過酷な環境にチャレンジしながら収益を上げてゆく姿を見ると、昔日の力はないと言われる米国との距離はまだまだ大きいような気がする。この本はそんなことを考えさせてくれたし、世界地図帳はグローバルな時代に本当に対処してゆくのは簡単ではないことを教えてくれるようだ。