プロゴルファーのスイング改造

 松山英樹のマスターズ優勝でゴルフ人気が高まるのは嬉しいことだ。実際ゴルフ場はとても混んでいる。老人が多いのは事実だが、30-40歳代の人も増えた気がする。今日のテーマはプロゴルファーのスイング改造についてだ。アマチュアゴルファーにプロが直面する技術的な問題など分かる由もないが、改造に踏み切ろうとする気持ちを想像することは出来るのでそれを書いてみよう。松山選手は自分のスイングを信じ、その精度を高めることでマスターズを制覇したが、トップゴルファーの中にはスイング改造を通してゴルフのステージを上げようとする人がいる。日本では石川遼とか女子ゴルフの渋野日向子などがそうだし,世界のトップではR.マキロイもスイング改造中だと伝えられた。

 わたしの年齢だとスイング改造というと中嶋常幸を思い出してしまう。彼は全盛期に全英優勝を惜しくも逃した後ぐらいでスイング改造に取り組んでいた。

 

 どんな技術的な問題があって、トッププロがスイングを改造しようと思うのかはわたしのような素人には分からない。しかし興味を引くのはすでに実績のある選手がなぜそのスイングを変えようと思うのかという点と、その改造が必ずしも良い結果をもたらしていないという事実だ。成績の良くない選手や、年齢を重ね昔のような筋力や体力がなくなった選手がスイングを変えようとするのは理解できるが、強い選手が過去にスイング改造した人たちの結果を知っているのに、なんであえてリスクを冒すのだろうか。

 

 中嶋常幸は4大メジャーすべてでトップ10入りし、そのスイングは世界一美しいとまで言われた。その彼がスイング改造に取り掛かったのはメジャー優勝にあと一歩と手が掛かった後だった。彼はその時に自分に足りない何かを感じたのだろう。世界のトッププロに交じってプレ-して感じたのだと思う。その何かを得るためにはスイングを変えるしかないと考え実行した。しかし彼はその後スランプになり、長い間海外はおろか国内でも勝てなくなった。数年後に国内ツアーで何勝かしたが全盛期は過ぎていた。前のスイングのまま足りないピースを埋める練習をしたほうが良かったのではと第三者は考えてしまうが、中嶋にはそれしかなかったのかもしれず、そう考えると彼は後悔などしていないかもしれない。今ならその時のことをどう思うのか訊いてみたい気がするが、彼が信じてやったことだろうからそんな質問は意味ないのかもしれない。

 

 石川遼も米国PGAで戦い、自分に足りないものを感じてスイング改造を行った。石川は今もスイング改造途中で徐々に目指すものに近づいていると語っている。しかし今年招待で出場した米国PGAソニーオープンとホンダクラシックは予選落ちしたし、2021年の国内最初の試合、東建ホームメイトでも予選落ちだった。改造途中なので本人はそれほど悲壮感はないとの報道だったが、ガッカリなのは否めない。石川は16歳で日本ツアーで勝利し、17歳でプロになった、いわば天才だ。2012年から米国PGAツアーに参加した。21歳の時だ。5年ほどいたが最後はシード権を失い国内ツアーに復帰した。彼についてはネットなどでネガティブなコメントをよく目にするが、わたしは米国での成績は決して悪いものではなかったと思っている。何度もベスト10に入ったし、2位が二回ある。彼の後で参加した小平智は運よく1勝を挙げたが、全般的な成績としては石川のほうが上だと思っている。

 しかしこの成績は石川が目指すもの、ツアーで優勝し、メジャーで上位に行く、からは遠いものだったのだろう。おそらく飛距離を求めスイング改造に取り掛かった。しかし腰痛もあってスイング改造は完成せずにシード落ちとなった。体幹をもっと鍛えるトレーニングをし、従来のスイングの完成度を高める方向を目指したらもっといい結果になったのでは考えてしまう。しかし米国で足りないものを感じた石川が、もっと上のステージに行くためにはスイング改造しかないと考えたのだろう。

 

 同じことが女子ゴルフの渋野日向子にも言える。渋野は石川と違ってすでに2019年の全英女子ゴルフオープンに勝っている。ルーキーイヤーでの世界メジャー制覇だ。目も眩むような成功をしたのだから、そのゴルフを突き詰めればいいと思うのだが、彼女もスイング改造を決断した。翌年の全英女子に予選落ちし、その後の米国ツアーでも良い結果が得られなかったので、全英勝利は幸運で真の実力がないと考えたのだろう。しかしその後の全米女子でも優勝争いをしているからその実力は折り紙付きだとおもうのだが。彼女もやはり足りない何かを見たのだろう。極端なまでにフラットになったスイングには驚いたし、今のところ良い結果もないが本人は改造に迷いがないそうだ。一段上のステージに行くには不可欠な改造だと考えているのだろう。

 

 トッププロとしてマスターズ以外のメジャーをすでに制したR・マキロイがスイング改造をしようとした理由はデシャンボーの飛距離を見たからだそうだ。デシャンボーが昨年の全米オープンを制したのはその圧倒的な飛距離のせいだと考えたのだろう。マキロイも十分ロングヒッターなのだが、その彼でさえデシャンボーの飛距離には魅力を感じたのだろう。スイング改造中の彼は今年のマスターズには予選落ちした。

 

 こうした例を見ているとどんなに上手いプロゴルファーも自分に足りないものを見つけるとスイングを改造したくなるようだ。その足りないピースを手に入れればもっと上のステージに行けると考えるのだと思う。彼らは特別な才能に恵まれたゴルファーなので、これまでゴルフの練習や様々なトレーニングでスイングに磨きをかけてきた。おそらくっ練習と努力で何でも身につけてきたのだろう。だから自分にない重要なものを見つけると手に入れようとする。しかしその足りないピースを手にいれることで、自分が従来から持っていた何かが変化することがあるように感じる。足りないものを補ったが、持っていた利点が微妙に損なわれるといったことが起きているのではないか。従来から持っていた利点は元々のものだけに、自分では変化しても気づきにくい。だからスイング改造をしてもトータルでは何かマイナスが起きていて、結果につながらない気がする。

 

 要するに隣の芝生は青いのだ。だからそれを求めてスイングの改造を目指すが、自分の庭も良い青色なのにそれを忘れてしまう。だから改造後の芝生はそれなりには良くて綺麗だが、何か前の芝生ほどしっくりこないし、隣の芝生の色とも違う。でも石川や渋野は今の方向を変えることはないのだろう。自分に足りないものを得ることでこれまで成功してきたのだから。今のレベルになったら従来と同じように改造の成果が得られるかどうか分からないとは考えないようだ。松山が自分のスイングにストイックに磨きをかけてマスターズを制したのを見ても自分たちが信じた道を行くしかないと考えているように見える。そう思うとトッププロゴルファーは因果な商売だが、なんでも一流になるとそうなのかもしれない。ファンとしては石川や渋野の改造が上手くいって良い結果をもたらすのを祈りたい。