ネスカフェのCMに出た三國清三

 ネスカフェドルチェグストでコーヒーを飲んでいる。まあコーヒーメーカーのようなものだが、コーヒーの液が入ったようなカプセルを使うので、手間がいらず汚れないので気に入っている。もちろん味が良いのは何より重要な点だ。わたしは土日の朝はグランデアロマというモーニングブレンド、平日の午後はルンゴというレギュラーを飲むが、妻やたまに帰ってくる子供たちはカプチーノや抹茶ラテを好んでいる。喫茶店のコーヒーと遜色はないという印象だ。これに出会うまではいろいろなコーヒーを飲んできたが、やっとこれに決めようという感じになった。

 ネスカフェは最近自社のインスタントコーヒーをレギュラー・ソリュブルコーヒーと表記を変えている。これは同社が開発した挽き豆包み製法によって作られた製品が従来のインスタントコーヒーの定義に当てはまらないからだという。これに対しコーヒーの業界団体が、いわゆるインスタントコーヒーに対してレギュラー・コーヒーの表記を使うのは不当表示だと主張して、結局ネスレ日本はコーヒー業界の諸団体から脱退したという報道があった。

 わたしにはどちらの主張に分があるのかは分からないが、勝負そのものはネスレ日本の勝ちだというのは明白だ。ネスレは日本のコーヒー業界で圧倒的な地位を占めているし、上述したドルチェグストの味は家庭でも本格的なコーヒーが楽しめるレベルのものだからだ。コーヒー業界はこれもレギュラーではないと言っているのかどうかは知らないが、簡単にこれだけの味を作り出せる器具と材料を用意したネスカフェの強さは圧倒的だ。問題は従来の名称でのインスタントコーヒーの味も本当にレギュラーコーヒーと遜色ないかどうかだが、これについてはネスカフェは徹底したテレビCMで攻勢をかけている。

 もともとネスレ日本はテレビCMがうまいので有名で、‘違いが分かる男’のコピーはとても有名だ。レギュラー・ソリュブルコーヒーについても有名シェフを使って従来のレギュラーコーヒーを超えたという宣伝をしており、こうしたシェフは自分お店でもネスカフェを使っていると言っている。有名レストランでネスレのコーヒーの瓶からスプーンで粉を救ってお湯をかけているとは思えないので、違う方法をとってはいるのだろう。ネスレ日本ソリュブルコーヒーをもっと美味しく飲むためには、同社のコーヒーマシンのバリスタを使うと良いと推奨している。三國清三が出ているCMもこの流れのものだ。

 このCMで三國は安定した美味しさを提供することの大事さを訴え、ネスカフェのコーヒーは一つずつ淹れるので酸化せずいつも同じ美味しさを提供できるというような事を言っている。そして彼が「これはインスタントではなくレギュラーコーヒーを越えた」と言うと、何種類かのネスカフェのコーヒーの瓶が映される。この流れで見ると‘オテル・ドゥ・ミクニ′では本当にこの瓶からコーヒーを入れているように感じる。多分前述のバリスタか何かを使ってはいるのだろう。きっと彼はレギュラーソリュブルコーヒーが本当に上手いと思っているのだろうが、インスタントの瓶から出したコーヒーを使っているとは思われたくはないはずだ。この点は誤解を生じる可能性が大だ。

 しかしわたしにとって三國のレストランがバリスタを使っていようがいまいがどうでもよいので、本当の問題は味が良いからといってネスカフェソリュブルコーヒーを使っているという点だ。三國清三といえば日本を代表するフランス料理のシェフである。グルメでも何でもないわたしですら、その名前だけでなく苦労してここまでのし上がった経緯を知っている。ゴルフをしない人が青木功尾崎将司を知っているようにだ。そんな料理界のカリスマとも言える人が、コースの最後に出すコーヒーはネスカフェのものだといっているのだ。決して安い値段ではない料理の後がそれでいいのだろうか? 

 コーヒーまで家庭では味わえないものを出してくれるのが一流レストランというものではないのか。デニーズやロイヤルホストバリスタを導入して、うちのコーヒーは三國のレストランと同じものですといっても文句は言えなくなるのだ。いや料理が全く違うと言いたいのかもしれないが、食後のコーヒーも大切な役割を果たすはずだ。コーヒーならファミリーレストランと同じになってもいいと考えているなら考え違いのような気がする。味がいいのだから、それはお前も認めているじゃないか、と言ってネスカフェで十分だと考えたのなら少し傲慢だろう。それともネスレ日本から提示された出演料に負けてしまったのだろうか。わたしはこのCMを見るたびにそんな違和感を感じるのだが、ネットなどでもそうした声が出ないのは何故なのだろうか。大御所である三國に対しては批判もできないのだろうか。大きな疑問だ。