東京都知事選の論点

 東京都知事選の投票日が迫ってきた。私は都民ではないから、第三者で高みの見物なのだが強い関心を持っている。というのは細川護煕小泉純一郎に支えられ原発即廃止をテーマにして立候補してからは、原発か反原発かの選択だと報道されてきたことへ違和感を持っていたからだ。しかし最近はマスコミももう少し広い視野でいろいろな問題を取り上げて、候補者の政策を比べ評価しようとなってきたようなので、これで少しはまともな議論がされるのかなと期待している。

 原発と反原発というシングルイシューの報道は、小泉氏のやり方にマスコミが乗せられた、または乗ったふりをしたから起こったのだと思う。その根底にはこれまでの政権運営が上手くいって得意満面の安倍首相への反発があるような気がする。朝日新聞の記事などは安倍氏のマイナスになるなら都知事選でもなんでも利用するのだといった気分がにじみ出ている。

 それがなぜ少し変わってきたのかというと、有権者都知事選は原発か反原発かの戦いだけではないという姿勢を見せていたからだ。この意味ではマスコミより、有権者の方がはるかにまともな意識を持っていると思う。

 私は原発の廃棄が重要な問題ではないと言っているのではない。これは国の問題で東京都知事選の論点ではないと言っているのでもない。日本の問題は東京の問題でもある。だから重要なテーマだ。しかしそれだけ論じていれば良いのかと言っているのだ。原発に対する姿勢だけですべてを判断して良いのかと言っているのだ。小泉氏がシングルイシューの選挙を仕掛けても、それだけではないでしょうと諌めるのがマスコミの役割だろうと言っているのだ。残念ながら新聞、テレビ、週刊誌の多くは、そうした冷静な対応をしなかった。

 小泉氏が言うように核廃棄物の処理には十万年かかるのかもしれない。子孫に負の遺産を残してはいけないというのも正しい。しかし政治とは目の前の現実と将来の理想のバランスをとるものだろう。十万年先のことだけ言っても、目の前の問題に悩まされている多くの有権者の心からの共感は得られない。マスコミや小泉、細川の元首相がそれだけを言っていられるのは、一般の人が悩む問題に彼らが悩んでいないからだ。特権にあぐらをかいているのだろう。政治家に求めれるのは限られたリソース(金、人、もの、時間)をいかに効率的に使うか、またそれを注ぎ込む対象をどう選び、優先順位を付けるかだ。そこを訴えてこそまともな政策になるのだと思う。この点小泉、細川の両氏の主張には具体性も、説得性も何もない。

 ちょっと考えても原発以外にも、首都圏直下型地震への対応や日本の財政危機への対応など重大な問題はいくらでもあげられる。東京の財政状態はいいじゃないかという人もいるが、その分東京以外が悪い結果なのだということを考えなくてはいけないと思う。日本財政状態がこれ以上悪化したら東京も無関係ではいられない。そしてこの問題は原発地震ほど直説的な怖さはなくても、実際の怖さは変わらないかそれ以上だ。景気回復の方法も、将来の年金も、医療も、教育も元にはこの問題がある。

 日本の国家予算の半分は国債でまかなわれている。もう二十年以上も抜本的な手を打たないと破産すると言われながらほとんど何もできなかったのが現実だ。安倍政権はそれでも景気向上の手を打ち、それなりの成果を上げて、大手企業では今年はベースアップの動きもある。また消費税のアップにも取りかかっている。これまでの政権がやろうとして出来なかったことに手をつけているのだ。もちろん本当の評価は百年後にしかわからないかもしれない。しかし財政再建にかすかながらも進展が見られていることは評価すべきだろう。都知事候補者たちはこれをどう考えるのか、安倍氏のやり方に反対なのか賛成なのか、反対の場合はどう財政再建をしてゆくのかも、原発と同様な力を込めて説明すべきだがそうはなっていない。財政的な裏付けもなしに、または地方の窮状には目をつむって耳障りの良いことだけを言っている。マスコミはそのことを追求していない。

 話は変わるが昨日(2月5日)の朝日新聞の一面の見出しはこうだ。

同時株安 日本突出 アベノミクス期待 反転

 あまりに扇情的な見出しではないだろうか。意味あることは何も言っていないのに、アベノミクスが失敗だという印象だけを植え付けようとしている。確かにこのところの株安は物凄いし、トップに持ってくるのもわかる。しかし見出しはせいぜい、’連日の大幅下落、4日でxxx円’くらいだろう。日本突出といっても、昨年の上昇も突出だったわけだし、この下落がアベノミクスの失敗によるものかどうかなどはまだわからないのだ。世界中で株安になっていて、単純にアベノミクスのせいだとは言いにくいので、日本が突出しているのはアベノミクスのせいだと言いたいのだろう。しかしこういうのを牽強付会というのではないのか。
 
 朝日は右寄りな安倍氏を嫌っているのだろうが、だからといって政策の評価を客観的にできないのなら公平なマスコミなどとは言わない方が良いし、政治家の答弁内容の細かいところに文句を言わない方が良い。自分がやっていることがどれだけ恥知らずなのかをよく考えてから発言すべきだ。こんなことだから若い人は新聞を読まなくなるのだ。インターネットだけのせいではない。