安倍総理の描く日本の将来

 秘密保護法、集団的自衛権など安倍総理の政策が論議を読んでいる。朝日新聞などは敵対意識丸出しの記事を書きまくっているが、問題は今ではなく本当に批判しなくてはならない時に、批判できるかということだ。権威を批判するくせに自分は極めて権威主義的な朝日新聞の体質を考えると、いつコロッと変わるか分かったものではない。もし言論統制がされたら日本のマスコミの大半は権力べったりの記事を書くだろうと思う。

 今日のテーマはそれではなくこうした政策の実現に意欲を見せる安倍総理はどんな日本の将来を描いているのだろうかということだ。私の想像では具体的なイメージなどはないのではという気がする。多分軍隊を持ち、アジアの覇権を中国と争うような強国になりたいとは考えているのだろう。中国と偶発的な紛争があったら自衛隊(恐らく自衛軍と呼んでいるかもしれない)を派遣して戦い、死亡した兵士を英霊として靖国に祀ることも考えているかもしれない。しかしそれで日本はどうなるのか、他国から信頼される国になっているのか、国民は今よりもっと幸せに人生を送れるのかなどはさっぱり分からない。

 その理由は安倍総理がそんなこと考えもしないからだと思う。安倍氏はよく’美しい日本’とか’平和を願う’と言うが、美しい日本とは具体的にどんな社会なのか、平和とはどんな状況を言うのか、現在の世界とどう違うのかなどははっきりしない。抽象的なイメージだけである。多分安倍氏にも分かっていないのだろう。氏は゜美しい日本’や’平和を願う’という言葉が好きなだけで具体的には考えていないのだと思う。

 元防衛官僚の柳澤協二氏が安倍氏集団的自衛権へのこだわりについて面白いことを言っている。集団的自衛権行使の理由として安倍氏と彼を支持する人達はは最近のアジア情勢の不安定化を主張する。例えば中国の軍事的脅威だとか北朝鮮のミサイル攻撃などだが、これらは集団的自衛権の問題ではなく個別的自衛権の問題だ。またアメリカが(その軍艦や基地が)攻撃された時にどうするのかという話もあるが、そもそもアメリカを攻撃を考える国があるのか、また世界一強大な軍事力を持つ国に日本が集団的自衛権の点から軍事的な助けを出す意味があるのかを考えると、集団的自衛権の行使を可能にするような憲法解釈の変更は必要なく、現在の法的枠組みの中で対応できると柳澤氏は言う。

 だから柳澤氏は集団的自衛権に政策目的があるわけではなく、安倍氏が’ようするにこれをやりたいからだ’としか考えられないという。これはわたしが言った’安倍氏は日本の将来の具体的イメージなど持っていないのでは’という推測を、現実の具体的問題から分析したとても鋭い指摘だと思う。

 安倍氏は祖父の岸信介元総理が60年安保を改定し日本に対するアメリカの防衛義務を明確にしたことで歴史的な使命を果たしたと考えているそうだ。そして自分の歴史的使命はアメリカとの双務性を完全なものにすることだと考えているという。だから集団的自衛権の現実的な必要性なり有効性はそれほど問題ではなく、集団的自衛権を行使できるようにすることの象徴的な意味こそが大切なのだろう。物議をかもした安倍総理靖国参拝もやはり同じ文脈で考えると理解しやすい。しかしそれが現実の国際政治でどう評価されるかの視点に問題があると思う。自分の信念だけに従えば気は済むかもしれないが、思慮には欠けると言われても仕方ない。

 この一年ほどの安倍氏の言動を見ていると可なり思い込みが激しい人だと感じる。ある人の意見が良いと思うと徹底的にそれにこだわる。もちろん一人の人間が何でも分かるわけではないから、そうした姿勢をいけないと言っているのではない。政治家の重要な仕事は意思決定だから、安倍氏のように決定していくのはそれが出来ないよりはるかに良い。それが上手く言ったのが金融政策だった。色々な批判を受けながらも日銀総裁を変え、一層の金融緩和をしたことで株は上がり、円安で企業業績は改善した。これはやはり安倍氏の功績だ。だから安倍内閣の支持率は高い。

 安倍氏がここで間違ってはならないのは高い支持率を維持したいなら経済政策を最優先にすべきだということだ。現状を見ると経済は、特に中小の企業の業績、地方の経済、株価などは、必ずしも良い状態になく不安定である。これの改善の手を打って行くことが大切で、TPPの交渉などを見ていると既存の権益に配慮する姿勢が強く、経済を抜本的に改革しようという気構えが弱いようだ。また既存権益を持つ人の多くが安倍氏の主張する自衛権を支持するようなのがややこしい。

 国民の大半が期待するのは経済の回復、維持で、将来に繋がる経済の仕組みの構築だろう。集団的自衛権などは安倍氏の個人的な思い入れに過ぎず、具体的なイメージがわかない国の将来像など国民にとってはさしせまった問題ではない。

 さらに最高責任者だからと言って憲法解釈の変更を強行したりすれば国民の反発を招くことは必至だ。国民はもちろん自国が攻撃を受けるのは我慢ならないが、本当に中国が戦争を仕掛けてくるとは思っていないだろう。何故なら中国にとって何のメリットもないからだ。国民に対するガス抜きで中国が強いことを言っているのはみんな分かっている。そんなことで危機感を煽っても意味がない。有事の際のアメリカとの軍事的役割を明確にして、効率的に国を守れるようにすればよい。憲法解釈の変更だとか、秘密保護法だとか、NHKの支配などに力を入れていると間違いなく支持を失う。せっかく自民党が多数を取り政治・経済の安定が実現しつつある時にそれを壊してはならないと思う。今の野党に期待できないことはみんな分かっている。今の安定的な政治状況を壊す方がよほど国益に反する。政界再編は大切だがそれは次の選挙の時だろう。