物価4%上昇 家計不安

 これは3月31日の朝日新聞朝刊(横浜南部配達)の一面トップの見出しである。これを見た読者は何を感じるのだろうか?物価が4%も上がり生活が圧迫されるようになるのかと不安になるのが普通だろう。また朝日新聞もこの記事をわざわざ一面トップに持ってくるのだから、読者にそんな不安を与えることを意図しているのだと思う。

 深刻な見出しなので、記事の内容を簡単に紹介しよう。消費税を2014年に8%、2015年に10%に引き上げた時の物価への影響が2%、それに日銀が目標としている物価上昇2%を加えると、2年後の2015年には物価が全体で4%上がるとのことだ。
 一方で企業は近年ベースアップをやめているので、このまま給料が上がらなければ家計が苦しくなる。その結果消費は落ち込み、景気が冷え込むおそれがあると言っている。

 三面にはこれに続く記事があり、消費税引き上げ前の不動産の駆け込み需要や株価の上昇に触れている。一時的な景気の回復の動きも増税後の景気冷え込みにより帳消しになるおそれがあるし、こうした不動産や株価の上昇はこれを保有している人だけが享受するもので、持たざる者との格差は広がると言っている。最後にニッセイ基礎研究所の矢嶋氏のコメントを載せ’よほど給料が上がらないと、物価が上がって苦しくなるのは所得が低い人だ’との見解を示している。

 日曜日の朝にこの記事を読んでまた暗い気分になってしまった。物価の上昇で生活が不安になるからではない。わけのわからない記事を読んでしまった後のむなしさと、こんな無意味な記事を載せ続ける大新聞への怒りを通り越した絶望からだ。

 いったい朝日新聞はどうすればよいと言っているのだろうか?そのままこの記事を素直に解釈すると、消費税の引き上げはやめるべきだし、デフレ脱却のための物価上昇もよくないといっているように思える。ようするにこれまでと同じ政策で行けと言っているようなのだ。

 しかしそうやってきた結果、日本の財政状況は破たん寸前だし、デフレが続き景気回復に至らないという状況が10年以上も続いているのだ。このまま手をこまねいてじわじわ転落する道をたどれと言っているとしか思えない。以前当ブログでも書いたが、今の日本国家を一般の家計にたとえると400万円の年収で900万円の暮らしをしているのと同じだ。足りない部分は借金だ。当然のことだがこんな暮らしがいつまでも続くわけはない。

 収入を増やすのと支出を減らす両方をしなくてはいけない。こんなことは昔から分かっていたのに抜本的な改革を避けてきた結果が今の状況なのだ。消費税の引き上げとデフレからの脱却と景気回復は避けられないのは子供だってわかるだろう。
 国民は年金も福祉も医療も今までと同じものは受けられないのだと認識することが大切だ。新聞が意味あるメッセージを出そうとするなら読者にそのことを説明し、理解をさせることだろう。いたずらに不安をあおることではない。日本は世界でも一、二の豊かな国だ。少しくらい生活のレベルを下げても豊かなことは変わらないのだ。400万円の収入を増やすことは大事だが、増えても450万円か500万円なら、その収入に見合った生活をしなくてはならない。昔はよかったと嘆くより、今の生活の中で喜びや希望を持つような心の在り方を提案する、それが大新聞の責務だと思う。

 弱者へのしわ寄せとか、消費税引き上げ後の消費低迷とかやる前から失敗した時のことばかりを言っても意味はないだろう。10年以上前ならいざ知らす、もうそんな議論をする時は過ぎてしまったのだ。何か思い切ったことをやろうと思えば、ネガティブな面は必ずある。すべてプラスなら苦労はいらないのだ。ネガティブな面が深刻ならそれはそれで手を打つべき、別の政策のはずだ。何もかもいっしょくたにした情緒的な議論は避けるべきなのだ。

 朝日新聞の記事で言いようのないいやらしさを感じるのは、上記の要旨にも出てくるようにおそれがあると言って逃げ道を作っていることだ。政府がやることには反対だが、それが成功するとメンツを失うので、反対とは言わずに、こんな悪い状況になるおそれがあると書き、結論的な部分は人の意見をのせることで、予測が外れた場合の自分への非難を避けようとしている。勉強はできるが、人の顔色ばかり見て、文句を言われないいい子でいたいという、最も嫌われるタイプの生徒のようになっている。新聞の凋落が言われて長いが、ITとの競争の問題よりも、新聞自身の記事を書く覚悟というかスタンスが一般国民から信頼されていないことを深刻に考えるべきだと思う。