松井秀樹にエール

 松井秀樹を応援している。そのことはこのブログでも何度も書いた。何故かというと松井の態度、生き方に共感を覚えるからだ。つまらない言い訳はしない、くだらない恰好付けはしない、努力を惜しまない、人への配慮がある等々、今の日本人が忘れかけた大事なものを持っているからだ。そしてそのことを自慢することもなく、解説をすることもない。まともな人なら分かってくれる、それで十分じゃないかという姿勢だ。彼につまらない嫉妬心や競争心を持つ、あの野球選手とはえらい違いだ。

 その松井に関する記事をネットで見つけた。週刊大衆のネット版である。その記事は松井の最近の行動に対する疑問がベースになっている。要約すると以下のようなものだ。
'松井秀樹は妻の出産に立ち会うという理由で、ヤンキースの臨時コーチや始球式を断った。またかねて言っていた大学への進学を本気で考えているようである。(記事ではボストン大学とのことだ)こんなことをしていると、巨人の監督になるチャンスを失ってしまうだろう。巨人は松井が引退を発表した後に、原監督の後任として入団交渉をしようとしたが、松井はそれに対してはっきりした態度を示していない。巨人には高橋、阿部と将来の監督候補が続いているのだから、球団が声をかけてくれた時にそのポジションを取らなければ、二度とチャンスはなくなる、松井はそれがわかっているのだろうか’

 私はこの記事に本当に驚いた。あまり記事の水準が高いと言えない週刊誌だから、真面目に読む必要などないと言われればそれまでだが、それなりの読者がいることを考えれば、くだらんと無視すればよいというのではないだろう。

 この記事の要点は、妻に出産に立ち会うという家庭の理由や大学へ行くなどという個人的な興味でヤンキースや巨人での仕事を失うことへの批判である。松井は愚かな行動をすることで大事な仕事、特にあの巨人軍の監督というポジションを得られなくなる恐れがあると批判しているのだ。

 私の疑問は妻の出産に立ち会うことで臨時コーチの仕事を失うことが、それほど問題(愚か)なのかということだ。さらにボストン大学へ行くことで巨人の監督になれなくなるリスクが大きくなるのがなぜいけないのかということだ。確かに巨人の監督にはなりたい人が沢山いるだろうし、日本の野球人にとって究極のポジションだという見方があるのは理解できる。しかしこれだけ国際的になって、野球に限らず日本人の一流アスリートなら世界で活躍するのが当たり前の時代に、巨人の監督が最高のポジションという発想は何ともドメスティックというか田舎くさいとしか思えない。日本の野球のレベルが一部の野球関係者が言うほどは高くないのはWBCを見ても分かるというものだ。

 松井は世界最高の人気球団ともいえるヤンキーズで長い間主力を務めた選手である。日本だけでプレーした選手や、島国意識の発想から抜けられないマスコミとはおそらく違うものを見ているはずだ。巨人の次の監督候補といわれることは松井も光栄だとは思っているだろうが、そしてチャンスがあればやってみたいとも思っているだろうが、その仕事が自分をもっと磨くために大学へ行くことを捨ててもよいほど彼にとって魅力的かどうかは分からない。ボストン大学に行けるチャンスも今を除いたらないだろう。ボストン大学は日本ではあまり知られていないかもしれないが一流の大学で、早稲田のスポーツ大学院に行くのとはわけが違う。

 わたしは松井が米国で大学へ行く決断をしたら素晴らしいと思う。彼ならしっかり勉強をして多くのものを身につけ、もう一段階上の人間になって帰ってくるはずだ。一つのことをを究めればそれで立派な社会人になれるという考え方を否定するつもりはない。しかし一方で日本の柔道界のリーダーたちのお粗末な言動を見ていると、その道一筋の人間の限界というか問題点もあると思わざるを得ない。松井がもっと英語が上手くなって、野球以外の知識を身につけたら国際的なセンスを持った本当の指導者になれると思うし、是非そうなってほしい。それに比べれば、横車を押す馬鹿なワンマンが牛耳る巨人の監督の座などたいしものではない。 

 ゴルフ界を見ると今石川遼が米国PGAで苦労している。勝つどころか予選を通るのもやっとというレベルだ。しかしこんなことは分かっていたはずだ。それをマスコミがいたずらに煽って、マスターズで最年少優勝をなどとやるものだから話がおかしくなる。アジアツアーとの共同のトーナメントが始まったが、タイランド・オープンでは日本人は何十人も参加したが優勝どころか十位に入るのがやっとだった。今週の欧州ツアーとアジアとの共催のマレーシア・オープンにも四人の選手が出て予選を通ったのは一人だけである。そんなレベルなのだ。だからできるだけ海外へ行って一流の選手ともまれるしか強くなる方法はない。石川は今苦労しているがきっとそれが報われるはずだ。

 他の競技も同じで野球も例外ではない。松井はそれを知っていて最高のチームに入ったのだ。現役を引退してもその姿勢は変わらないだろう。今までの経験を無駄にせず、より高いところを目指そうという気持ちを持つのは当然だ。島国精神の視野の狭い指導者は沢山いる。松井ならもっともっと上を目指せるはずだ。雑音を気にせず、ぜひ自分が考えた道を行ってほしい。心から応援する。