北欧旅行;言っておきたいこと

 北欧旅行はとてもおすすめだ。ヘルシンキは日本から9時間くらいだし、治安も良いし、観光だけではなくて買い物も楽しめる。といってもいいことばかりではない。嫌になるのは物価が高いことだ。それも日常のちょっとしたことで物凄くお金がかかることに驚く。コペンハーゲンで日本のアンデルセンでのパンとコーヒーの昼食の値段の高さを書いたが、こうしたことは旅行中感じていて最後まで慣れることはなく、諦めることで対応するしかなかった。

 朝はホテルでしっかり食べるので昼は街のカフェでサンドイッチとコーヒーのようなもの大半だったが、だいたいこれで2400円から2800円位は行く(サンドイッチも出来合いのラップに包んで置いてあるやつだ)。オスロの空港で昼にピザハットでピザ(ふた切れで別に大きくもない)とペプシコーラ2杯で2500円取られたときは本当に驚いた。日本だったらピザの丸いのをそれぞれが食べてもこんなものだろう。ちょっとしたレストランで同じようなものを頼むと二人で4000円は行く。マクドナルドには行かなかったのでファーストフード店の値段が日本とどのくらい違うかは分からないが、わたしの印象では昼食は60%から80%くらいは高いような気がした。

 ベルゲンの駅からホテルまで歩くと25分位の所をタクシーに乗ると2000円だった。日本なら1000円から1100円といったところだと思う。しかもタクシーの中にはホテルのそばに来て大回りをしようとするのもいて油断はできない。怒って文句を言ったらメーターを倒したが旅行者相手のぶったくり商売をやる。もっともこれはタクシーにおける例外的な事例で、全般的にレストランやカフェのサービスは良いし、人種的な差別をされることもなく楽しい時間を過ごせたことは言っておかなくてはならない。

 夕食も日本に比べると高いのだが昼食ほどの違いは感じられない。街のレストランだと30-40%くらいは高いかな感じる程度だ。ホテルやガイドブックに出ているレストランになるとその差は15から20%位という印象だ。もちろん旅行者にとっては何でも値段が安いのに越したことはないのだが、こうした値段の差の変化を見ると日本の社会との根本的な違いを感じてしまう。

 日本の外食店などでは過当競争のせいか長い間値段が低迷したままになっているが、北欧ではそうした分野の値段がものすごく高い。一方で高級店での値段はそれほど大きな差はない。このことは日本では低賃金や過重労働を強いられている人たちの層が北欧ではもっときちっとした待遇で働いていることを示しているように感じた。具体的に最低賃金がどうなっているかは分からないが、こう考えると昼食やタクシーなどの料金の高さも社会の公平性を保つためのコストかもしれないと納得がいく。消費税も20%以上だし、皆が公平で安全な社会を維持するために必要な負担をシェアしているように思えた。レストランで働く人たちの感じの良い対応や街で道を聞いても親切に教えてくれる人が多いのも社会にゆとりがあるせいかもしれない。

 日本では最近アメリカ的な優勝劣敗の考えが広まり、能力が有ってよく働く人はたくさん稼げるが、代替が容易な一般的な職種についている人たちは低賃金で不安定な雇用状態に置かれている。多くの人がそれで良い、特に高収入を得ている人たちがそれで良いと考えているようだが、この状態は少し行き過ぎなのでは思ってしまう。エリートと言われる人達が「俺たちは能力があるのだからもっとよこせ、付加価値の低いサービス業は低賃金でも当然だ」という社会は間違っているのではないか。エリートはもう少し広い視野で社会全体の幸福を考える必要があると思う。北欧で体験した物価の高さはそんなことを考えさせてくれた。


 次に他に気づいた点に行こう。北欧諸国の通貨は国ごとに異なるので面倒だがクレディットカードの利用可能範囲は極めて大きく、ほとんど何にでも使用可能と言って良いと思う。但し、VISAが圧勝で(MASTERもそうだと思うがこれは使っていないので正確には分からない)AMEXはホテルや大きなレストランに限られるようだ。JCBに至っては完敗で参加不能といった状況だ。わたしはAMEXとJCBをメインのカードとしているのでこの点は困惑した。普段使わないJALカードについたVISAで乗り切った次第だ。特にできるだけ使おうとしたJCBは全く役立たずで、JCBも国際カードというならもう少し真面目に海外での使い勝手をよくして欲しい。これでは二流のローカルカードのままだ。

 ホテルについては行く前に治安の心配とタクシーへの不安(値段の高さとサービスの悪さ)を持っていたので駅前のホテルを予約して電車やバスで行っても歩けるようにした。これはやはり正解で駅から3-4分が大半でとても便利だった。10泊中6泊をラディソンにしたが、全部そうしてもいいくらい部屋の質や従業員のサービスの点で際立っていた。特に多くの日本人はアメリカ的なホテルに慣れているので、それと同等の質を提供するホテルを選んだほうが良いと思う。もっともわたし個人は狭くシャワーしかないことも多いが趣のある昔のヨーロッパ式のホテルが嫌いではないので、妻がいないひとり旅だったらそれもいいなと感じた。

 パックツアーに慣れた人、英語に不安のある人には今度のような気ままな旅はおすすめしないが、いろんな不便があっても(重い荷物を自分で運ぶことや慣れない公共交通機関を利用する、トラブルが起こったときに自分で処理する等)個人で旅する面白さは何物にも代え難いと思った。何より行った場所や出来事がパックツアーで行くよりはるかに鮮明な記憶として残っている。食事も好きな時間に好きなものを食べることができる。人生がそうであるように苦労したことのほうが思い出になるのと同じだ。旅は人生だなんて誰かが言っていたような気がする。