シャープ転落に思うこと

 シャープが4―6月期に約1000億円の赤字(前年同期比2倍の損失)となり、数千人規模の人員削減を行うとの報道があった。シャープについては少し前にも、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業から1300億円の出資を受け、実質その傘下に入るというニュースを聞いたばかりである。今年の3月期の決算で3760億円もの赤字を計上し、存続が危ぶまれていたことへの対策であった。今回の報道は、鴻海の出資を受けても状況は好転せず(悪化している位だ)、生き延びるためにあらゆる手を打っていることを示している。

 シャープはTVCMで'シャープは目の付けどころがシャープだ'といって、その商品開発力を誇ってきた。実際ソニーパナソニックをはじめとする巨大電機メーカーの中でユニークなポジションを確保して、存在感を見せていた。特に液晶テレビはその画質の良さから、製造工場の名前を取って'亀山モデル’と呼ばれ、市場で高い人気を誇り、指名買いがされるほどのヒット商品となっていた。それから数年のうちに、このような状態になるとは、当時だれも予想しなかっただろう。

シャープの不振の理由は色々とあるようで、マスコミでも解説がなされているので繰り返さないが、液晶テレビの価格急落を予想出来なかったことが大きいと言える。エコポイントにより需要が伸びた液晶テレビだが、日本のメーカーはその状態が続くと予測して巨額の投資を行ったが、一通りいきわたった後は価格競争になり、現在の価格は3年前の約半額だそうだ。ソニーパナソニックも同様に大赤字で苦しんでいる。(東日本大震災やタイの洪水の影響があったのも事実だが)

 シャープのこうした現状を見ると企業の盛衰の激しさに驚かざるをえない。現代の戦争だとさえ感じる。戦争に負けたと思えば、競争相手や資金力のある企業にのっとられるのも当然かもしれない。国家間の戦争のような殺し合いや、負けて奴隷にされることがないだけ、こちらの戦争の方が良いだろう。もちろん吸収される企業の従業員は給料の削減や人員整理に直面し気の毒だが、本当の戦争のように命の危険を感じることはない。


 何故こんなことを考えるかと言うと、領土問題における最近の中国やロシアとのやり取りから、戦争の怖れを感じてしまうからだ。中でも中国の帝国主義というか覇権主義は目に余るもので、尖閣列島だけでなくチベット問題、東南アジア諸国との領海問題など無理を平気でゴリ押しする。これだけ強引なのは強い経済力と巨大な軍事力で相手に脅威を与えられるからだ。友愛と言えば事態が好転すると信じる元首相のような能天気では、大国のこんな横暴には全く無力だ。一時は現実的な解決も期待された北方四島問題も、ロシアに日本の外交力の弱さを見極められて以前より後退している。

 尖閣列島も東京都の購入により(その後日本政府が保有すれば一層)、今後激しいやり取りになるのは明白だ。もちろん中国が尖閣を奪い取るために直ちに軍隊を派遣するとは思えないが(希望的観測かもしれないが)、以前より一層激しく漁船を使ったりして、一種の実力行使をしてくるのだろう。日本の領土だからこれを排除するのは当然ながら、相手が危険な行動に出てきたら衝突せざるを得ない状況は避けられないかもしれない。けが人が出たり、身柄拘束となると緊張は高まるだろう。

 国際世論に訴えても分がないことを知っているから、中国は軍事力を誇示したり、経済制裁をちらつかせて、日本を脅しにかかると思われる。チキンゲームのようなものだから、先に弱みを見せた方が負けだ。理はこちらにあると毅然とした態度を貫くしかないのだ。こうしたことを考えると、以前から中国と国境を接して紛争が続くインドが核を保有するのは理解できなくもない。
 日本の平和主義者には怒られそうだが、また彼等が主張する'核に対して核を保有しても意味はない'のは正論だと認めたとしても、中国のような国に対しては軍事力はそれなりの効果があると思う。中国の上層部が日本の軍事的、経済的脅威の大きさを評価しながら、色々と攻撃を仕掛けてくるのは間違いないから、こちらも持ち駒(あまり有効なものはないが、米国や国連をいかに味方につけるかだろう)を上手く使って対応するしかない。誠意や友愛が通じないことは明白だ。

 こう考えると米国に頼るのは良くない、軍事力を持つのは反対だと主張する人達は、マスコミにも学者にも一般市民にも数多くいるが、こうした人達はどうやって国際社会の中で日本の国益を保持しようとしているのだろうか。日本の経済力をもってすれば中国やロシアも無理なことは出来ないし、国際的な非難も避けたいと考えるだろう、また米国もパワーバランス上日本を守ろうとするから安心だとでも考えているのだろうか。そこには自らの意思で国を守ろうという思想はなく、相手任せの楽観的な見通しだけだが、その見通しが誤ってもやむを得ないで済ますのだろうか。これらはあまりに大きく複雑で簡単には答えが出ないが、横暴な振る舞いを続ける国に対して、効果的な対処の方法は何かを、見出してゆかなくてはならない。それには国際的な協調と共に軍事力を保持するかどうかを避けて議論することは出来ないだろう。

 最初の問題に戻ると、国家間の戦争よりは企業間の競争の方がはるかに望ましい。しかし経済競争での勝ち負けでは、自国への富の流入が十分ではないと考える大国が軍事力を背景に無理を通すことをやめさせるのは簡単ではない。それをすることで彼等がより大きな経済的ペナルティを払わざる得なくなる仕組みが作れれば効果があるように感じる。誰か政府か官僚の優秀な人が考えて、米国を引き込む(当然米国に有利な仕組みにはならざるを得ないだろうが、中国ロシアをけん制出来ればそれで良いとする)ことを出来れば良いのだが、夢物語だろうか。