オリンピック日本選手にエール

ロンドン・オリンピックが始まった。毎度のことながらどうもテレビに釘付けになってしまう。会社勤めを辞めて、時間が十分あるので以前ほどは明日を気にする必要がないことも大きい。いつも思うことだが、一流の選手たちは多くの場合紙一重の力の差なので、勝ち負けと言っても運も大きな要素だ。それでも勝者と敗者が出来て、そこには名誉や称賛、その後の人生などに大きな違いが生じ、スポーツの勝ち負けはつくづく残酷だと思う。

 今日(7月30日)の時点では、金メダル有望と言われた女子柔道や男子100平泳ぎがメダルに届かず、抜きんでた実力と言われた体操の内村も失敗続きで9位スタートとなった。一方で事前にはさほど騒がれていなかった、高校生スイマーの萩野や女子アーチェリーなどが銅メダルを取った。やはり事前の期待が大きいとプレッシャーになり、力が発揮出来ないことも多いようだ。


 勝負だから勝ち負けがあるのは当然だが、選手が精いっぱいやったのなら、結果の良い悪いはしょうがないとわたしは考えている。柔道のように日本のお家芸と自負している競技は、金以外は価値がないといった態度が選手団の幹部達に出ていてどうかなと言う気がする。柔道界の幹部達が考えているほど日本の柔道は力が抜きんでているわけではなく、彼等が本来の柔道と信じてすがっている方向とは違った形で海外で柔道は発展しており、柔道をベースにした新しいジュードーというスポーツになっていると感じる。それは世界のスポーツになっている証しでもあり、素晴らしいことなのだが、そこで勝つには世界の流れに対応した戦い方が必要だと思うのだが、現実は上手く対応できていないようだ。

 男子柔道では2種目が終わり、銀と銅メダルを取ったが選手がちっとも嬉しくなさそうなのは良くないと思う。銀とか銅で嬉しがると監督やコーチに怒られるのかもしれないが、また本人達も金メダルが取れなかったので悔しいのだろうが、あの厳しい戦いでメダルを取ったのだから'悔しいけれど全力で戦った結果のメダルなので嬉しい'ぐらい言ってよいはずだ。女子柔道で優勝候補だった福見選手は準決勝で敗れメダルが取れず、試合後のインタビューはショックがありありとしていて見るのもつらいものだった。失意の中、質問に真摯に答えようとする福見選手は痛々しいが誠実さがにじみ出ていて、その人間性に感動させられた。

 福見選手に限らず、日本選手のインタビューへの対応は自身の結果のいかんを問わず、おおむね誠実で謙虚さがあり、見ていてすがすがしくなるものが多かった。(女子サッカーの澤選手に関してはそうでないような報道もあったがわたしは見ていない) そんなやりとりから選手が人間的に成熟していると感じられた。これは必ずしも年齢によるものとは言えず、西欧のスポーツ選手は(スポーツに限らないが)一般的に成熟さを感じさせる受け答えをする。

 昔オリンピックで期待された成績を上げられなかった水泳選手が、悔しさまぎれなのか、過度な期待をする国民が悪いと言ったことがあったが、今回の大会では良い成績をあげられなくても、ほとんどの選手が、多くの人達の支援を受けたのに、期待に添えず残念だといった大人の答えをしていた。

 前記の水泳選手のは発言はあまり思慮深いとは言えないが、若いせいだろうと思ったが、驚いたのはそのインタビューをしたニュースのキャススター(久米宏)が、良く言ったと言わんばかりに彼女の発言を褒めそやしたことだった。彼女は天才スイマーとしての名をほしいままにした選手で、メダルの期待が高かった。結果として不本意な成績で終わったのは、今回の内村や福見に似ている。(私の印象では内村や福見の方がはるかに強い期待/プレッシャーを受けていた) 
 
 彼女は残念だったと思うが、彼女を支えた多くの人達も残念だったはずで、国民にもそういう気持ちがあった。選手がそんな発言をしたら、'気持ちは分かるが君のために多くの人達が様々な支援をしてくれたのだから、そのことを考えて発言するべきだ'ぐらい言うのが大人の責任だと思う。しかしそのキャスターはそんな発言を引き出しそれを擁護することで、メダル至上主義の国民に対しての警告を発するという行動に出たのだった。要するに若い女子選手の不用意な発言を利用してキャスターとしての自らの手柄にしようとしたとしか思えなかった。

 このテレビ局は夏の高校野球のスポンサーとなっている新聞社の系列である。わたしはかねて夏の高校野球ほど欺瞞に満ちているものはないとこのブログでも主張してきた。高校生の野球に対する思いを利用して商売している以外の何ものでもないからだ。体が出来上がる年齢に過酷な日程で試合をさせ、結果的に選手生命を縮めてしまう。そんな例をどれだけ見てきただろうか。メジャーリーグにもいけるような投手が大抵ひじや肩に障害を持っていて、20代のうちに手術を余儀なくされるのは、高校時代にむやみに体を酷使したからである。そんな大会を主催することへの批判精神は全くないが、自社に無縁だと平気で国民のメダル至上主義を上から目線で批判する。こうした一貫性のない態度でニュースを報道することへの反省はまったくないようだった。

 今回もNHK始め各テレビ局が大報道体制をしいている。報道する側の姿勢はあの時と比べ変化したのだろうか。選手が立派な戦いを続け、誠実に報道に対応しようとしている中で、マスコミの方も成熟した報道を行うことを期待したいと思う。