経営学雑感

 最近必要にせまられ経営学関連の本をやたらに読んでいたら、すっかり疲れて混乱してきた。経営学と言っても、所謂戦略関連から、会計、組織行動、マーケティング、コスト分析など様々で、これら数冊を並行して、その時の気分で読んでいたので、まあ分かる話も分からないというか、こちらの理解力の低さを棚に上げて、大体役立つものではないという当たり前の乱暴な結論に行きついてしまう。

 会計、コスト分析、組織行動などはまだ対象が明確で納得できるが、戦略論になるとこれはもう後付けの議論のようなもので、その通りに経営をしたら、競争に打ち勝ち、環境変化に対応できるかというものではない。上手くいった企業を分析するとこういう傾向があるようだといったもので、その通りにやれば成功するわけではないのだ。これは当たり前で、もしそうなら皆同じことをするはずで、そうなると差別化など出来ないから成功しなくなるという矛盾が生じる。

 多分戦略論の専門家達が言う要素に、何らかの要素が加わることで成功に行きつくというのが正解なのだろうが、問題は追加となる何かが企業によって異なったり、その企業がおかれている状況によって変化したりするわけで、成功に至る最後のパズルのピースが特定できないことなのだろう。だからその点に注意して議論を進めないととてもおかしなことになってしまうと思う。

 この分野では神様のようなマイケル・ポーターを紹介をしていた本の中に、ポーターの理論で日本の製薬業界を分析した部分があり、そこで著者は以下のように言っていた。

'ここまで見てきた要因のほとんどが、大衆薬の業界に比べて医療用医薬品業界のほうが魅力的なことを示しています。大衆薬事業の経営者はこの構造を念頭において戦略を考える必要があります'

 これを読んだ時は本当に驚いたが、これは相当に大衆薬企業の経営者の方に失礼なのではないだろうか。こんな構造の違いは明白で、私でも分かっているのだから、その業界の経営者にとっては自明の前提であるはずである。経営者の方はこんなレベルで戦略を考えているはずはないので、知恵を絞ってパズルを完成させる最後のピースを探しているのだと思う。もう少し現実を理解して理論を話さないと、経営学の信頼性を損なってしまうのではと心配してしまう。


 経営に限らずなんでも理論を学べば上手くいくものではない。ゴルフのレッスン書(DVDも含めて)は山のように出版されているが、それを読み、見たからと言って良いショットが打てるわけではない。書いてあることは正しくても、読み手がそのように出来ないからだ。出来ない理由は千差万別で、個人個人の能力、技能、体力等によってさまざまである。だからもっとも効率の良い上達法は、出来るだけ多く練習場に通い、信頼のおけるコーチの指導を受けることであり、本を読むことではない。

 では経営はどうかということになるのだが、ゴルフのようにコーチにつけば良いというほど簡単ではない。大企業になればなるほど、多数の要因が経営に影響を与えるからである。まあそこで経営者の能力が出てくるのだろうが、経営者も人の子で、いつも自信に満ち溢れているわけではないから、学者の理論に頼ったりしたくなるのだろう。異常に高いフィーを取るコンサルティング会社よりは、経営学の本の方がコストパーフォーマンスは良いかもしれない。