石川遼への制裁金は妥当か?

 日本ゴルフツアー機構(以下GTO)は石川遼に対して、関西オープン、ト-シンオープンへの2年連続不出場を理由に、各100万円ずつ合計200万円の制裁金を課すと発表した。同時にGTOの小泉直会長は罰金に加えた新たなペナルティも考えていると語った。

 スポンサーへの配慮から、シード選手は正当な理由がない限りトーナメントへの出場が求められ、2年連続で同一トーナメントを欠場した場合は100万円の制裁金を課すと決められているので、今回の石川への措置もそのルールに沿って行われるものだと言える。しかしわたしはこの決定には疑問を感じている。そこにはルールを盾に選手に罰則を科すことで、GTOの無策への批判をかわそうとする意図が感じられる上に、この決定自体が大きな自己矛盾となっているからである。

 この問題が大きな話題となったのは、石川遼の欠場に不快感を持ったト-シントーナメントのスポンサーである石田信文氏が'欠場に対する罰則をもっと厳しくしなければ、来年からは男子トーナメントのスポンサーを辞めて、女子のゴルフトーナメントのスポンサーになる’と語ったことによる。罰則を厳しくと言ってはいるが、要するに石川遼を出場させろと言うのが本音だろう。今年の賞金ランキングの上位にいる韓国人プレーヤー二人も欠場しているが、実際的な問題は石川遼が出ないことなのは明白だ。石川が出場するとしないとでは、話題性も違うし、観客動員、TV中継などあらゆる点で差がある。スポンサーの石田氏は高い金を払ってこれでは割が合わないと文句を言っているのだ。GTOは石田氏の強硬な言葉に慌てて、前述の対応を取る旨発表したのである。

 しかし石川遼のトーナメント欠場の背景を見てみると、GTOの今回の措置には疑問を感じる。まずトーシントーナメントだが、昨年は全英オープンと重なったため石川は出場できなかった。その意味では今年の欠場は1回目だと考えるのが普通ではないか。GTOもそれは分かっているはずなのに、スポンサーの見幕に負けて石川に制裁金を課すことにしたのは理解し難い。

 関西オープンは以前は歴史あるツアー競技だったが、1990年代に地方トーナメントに格下げされていた。2008年に石川遼が出場してプロ初勝利を挙げた翌年からツアーに復帰したが、夏の暑い盛りに行われる上に賞金の規模も小さくマイナーな感じは否めない。石川はこれを去年、今年と欠場したが、今年は特に全米プロの翌週という事情があった。
 要するに2つのトーナメントとも海外のメジャーに出場した結果、出場が難しくなったという背景があるのだ。


 石川遼はこうした事情があって2年連続の欠場になったわけだが、それに対して制裁金を課すというのは、国内トーナメントがメジャーと重なった結果の欠場にも特別な救済はしない、またメジャーの翌週に行われる国内ツアーには、どんなに疲れていようと這ってでも出ろと言っていることと同じだ。選手も生身の人間である。メジャーでの厳しい戦いを終え、時差のあるところから帰っすぐトーナメントに出ても良いプレーが出来るとは思えない。それより1週間開けて体を休めた方が、次の試合に万全の体調で出場出来るだろう。
 GTOの役目はこうした事情を選手の代わりにスポンサーに説明し、理解を得ることではないのか。それをせずにより厳しい制裁をなどと、聞き分けのないスポンサーのご機嫌取りをするのだから呆れてしまう。AON後のスター不在で低迷していた男子ゴルフ界を救ったのは石川遼である。今厳しい経済状況下でもスポンサーがついているのは石川遼の功績であって、GTOの努力ではない。GTOはそれを忘れてはいけない。石川サイドにも父親の横暴などの問題点はあるのかもしれないが、石川遼が救世主であるのは動かし難い事実だ。

 石川遼は人気だけでなく、実力でも世界と戦えるポテンシャルを持つ数少ない人材だ。米国や欧州から大きく後れをとった日本の男子ゴルフを、世界レベルに近づける可能性を持った選手である。 GTOはこうした才能に対する敬意と配慮が全く欠けている。(もちろん恫喝的発言をしたスポンサーも同じだ)石川遼が海外のツアーで勝ち、メジャーでも大活躍することが彼の価値を高め、ひいては日本の男子ツアーの実力と評判を高めることに繋がる。だから石川が海外の試合に出やすいように環境整備をするのがGTOやスポンサーの責任だろう。それを妨げるようなことをしていては日本のゴルフは世界に到底追いつけないと思う。

 
 ここであらためて今後石川遼がとりうる選択肢とその選択の結果起こりうることを考えてみよう。
 1.国内のツアーに専念する。石川は日本のナンバー1の選手として活躍するだろうが、メジャーにも出ないので世界的には高く評価されない。この結果、日本のゴルフツアーはますます世界から取り残され、最終的にはファンの支持も失う。
 2.日本のツアーを捨てて米国か欧州のツアーに参戦する。日本のトーナメントは規模の大きな数試合だけにスポット参戦する。これは石川が世界で通用する選手になるためには最も効果的な選択である。しかし日本のトーナメントは、彼が出場する試合以外は人気が急落するだろう。但し、石川が海外で活躍すれば、ゴルフそのものの人気は高まり、ファンも増えるだろう。
 3.日本ツアーをメインにしながらも、海外のメジャーやビッグトーナメントには積極的に参戦する。これは今の状況に近いがより海外への参加を増やす方法で、最も現実性のある選択肢である。GTOにとってもツアー人気が維持でき、スポンサーが離れないといった点で最も都合が良いだろう。しかし国内のツアーへの参加は今より少なくなることは避けられない。それに対して今のルールを適用して制裁金を課していくべきか、まともな頭で考える必要がある。

 わたしは以前も書いたように2を勧めるものだが、最悪3でもやむを得ないかと感じている。ゴルフファン、スポンサーは一体となって彼をサポートすべきで、GTOはその道筋を付ける役割を果たさなくてはいけない。


 ゴルフだけでなく日本のスポーツの上部団体はおかしなものが多い。プロ野球機構も一部のオーナーの言いなりだし、相撲協会は当事者能力がなく、プロボクシングコミッションもお粗末な内紛を繰り返している。プロだけではなく、アマチュアも同じで陸連のオリンピック選手の選考は不透明だし、高校野球を統括する高野連など世間の感覚とはずれている。それらの組織や幹部達は選手達の活躍で自らの地位や存在が保たれているのに、選手の努力や才能への敬意がなく、選手を道具扱いしている。それに権威主義のマスコミが結び付き、自分たちの利益のために選手を消耗品扱いしている。日本の野球選手、特に投手が長持ちしないのは、高校野球で酷使されているからなのは明らかなのに、新聞はそれに目をつむり、相変わらず純粋なスポーツ美談を書き続けているからどうしようもない。

 ゴルフに話を戻すとGTOはスポンサーの顔色をうかがい、選手を規則で縛るのではなく、もう少し戦略的な視点から日本のゴルフツアーを改善しようとすべきではないのか。石川遼がいなくなってもファンを繋ぎとめられる工夫をすべきだろう。例えば、アジアツアーとの共催をもっと進め、年の数試合はヨーロッパツアーに組み込むくらいのことをやらないとレベルは上がらないし、ツアーも盛り上がらないだろう。もちろん米国ツアーと組めるならもっとよい。従来の発想を超えたプランを考える時だ。目の前の利益に気を取られ、数少ない才能を潰すようなことをしていてはいけない。