2011全英オープンゴルフ選手権

 サッカーの女子ワールドカップにおける'なでしこジャパン'の見事な優勝には、本当に驚き感動したが、同時期に行われた全英オープンゴルフも興味深い戦いだった。もっともこちらは日本人プレーヤーは全く不振で、6人の出場者のうち予選を通ったのは池田勇太のみで、彼もトップとは15打差の38位タイであった。優勝は北アイルランド出身で42歳のダレン・クラークで、20回目の出場で栄冠をつかんだわけで、これは全英オープン史上最も時間がかかった優勝とのことである。このことを考えても、メジャートーナメントは日本人プレーヤーがちょっと行って、勝てるものではないことが分かる。日本人プレーヤーの結果も妥当なのかもしれない。


 ダレン・クラークはヨーロッパツアーで活躍するゴルファーだが、米国、日本でも優勝経験のある実力者である。特にアクセンチュアマッチプレータイガー・ウッズを破り優勝したことや、中日クラウンズや太平洋マスターズなど日本での優勝も印象深い。ヨーロッパの選手らしい大人の雰囲気のあるダンディな人で、私の好きなゴルファーだったので、今回の優勝はとても嬉しかった。しかしこれだけの実績と実力を持ったプレーヤーでもメジャーに勝つのは簡単ではなかったのである。


 クラークのように実力があり、メジャー制覇にあと一歩まで行っていながら勝てないプレーヤーは何人もいる。ヨーロッパ勢ではコリン・モンゴメリー、リー・ウェストウッド、セルヒオ・ガルシアなどはすぐに思い浮かべることができる。モンゴメリーはヨーロッパで31勝、その他で9勝(米国では勝っていない)、ウェストウッドはヨーロッパ18勝、米国2勝、その他で7勝(日本での4勝を含む)、ガルシアはヨーロッパ8勝、米国7勝と3人とも素晴らしい戦歴である。彼等はメジャーでも素晴らしい活躍をしている。モンゴメリー全米オープン、全米プロ、全英オープンで2位に入っているし、ウェストウッドはマスターズ、全英で2位、全米オープンで3位に入ったことがあり、今年ワールドランキングでタイガーを抜いて1位になったほどで(現在は2位)、いつメジャーに勝っても不思議はないと言われている。ガルシアのメジャーの成績は全英、全米プロが2位、全米オープンが3位、マスターズが8位である。こうした選手たちですらメジャーでの勝ちには恵まれず、来年以降も厳しいチャレンジを続けるのだ。


 何故こんなことを長々と紹介するのかと言うと、この3人それぞれが1人で達成した記録すら日本人プレーヤーは残していないからである。過去には青木、尾崎、中嶋が毎年参戦したが、青木の全米オープン2位と、中嶋が4大会全てでベスト10入りし、特に全英では2度も優勝争いに絡んだことが印象に残る位だ。最近では伊澤がマスターズ、片山が全米プロ、マスターズで4位に入ったが、その後の日本人選手は全く上位には食い込めず、今回の全英のように予選を通れば良いといったところだ。ここで述べた日本人選手の実績を、一人で達成出来るようなゴルファーが現れて、初めて優勝の可能性を議論できるのだと思う。


 もちろんゴルフはスポーツでありながら勝負事の一面があるから、日本人ゴルファーが自身の最高のパフォーマンスをして、運に恵まれれば、メジャーでも勝つ可能性はゼロとは言えないかもしれない。しかし客観的に、実力、実績を見れば勝つ可能性は果てしなく小さいというのが、正直なところだ。ワールドランキング50位と言う条件で、日本人ゴルファーもメジャーへの参加資格を得ているが、ランキング決定の方法が日本人には有利になっているようで、石川や、池田がそのランキングに相応しい力を持っているかは疑わしい。彼らよりランクは下でも強い選手は沢山いる。上記のクラーク、モンゴメリー、ガルシアでさえ、不振な時期があったとはいえ、最近日本人ゴルファーより下のランクにいたのはおかしいと感じる。マスコミも日本人選手を持ち上げて、メジャーで活躍しそうな報道をしてムードを煽るのではなく、もう少し冷静な報道をすべきだろう。

 そんな景気の悪い話をしていては、誰もメジャー大会の結果に興味を持たなくなってしまうと言うのがマスコミの言い分なのかもしれない。しかし日本人選手の実力を必要以上に高く評価し、いかにも上位に入れそうな報道を続けることこそ危険で、結果的に大衆の信頼を失うことを、スポーツマスコミはもう少し真剣に考えるべきだと思う。

 サッカーの女子ワールドカップで、ドイツは敗退しているのにも拘わらず、日本対米国の決勝戦に行き、その試合内容に感動したドイツ人が沢山いたように、日本のゴルフファンも日本人ゴルファーの活躍だけを期待してメジャー大会の報道を見ているわけではない。スポーツマスコミはプロの視点で大会の見どころを伝える知恵と努力をもっとすべきだろう。なんでも石川に頼る安易な報道をしようとするから、石川の父親の報道規制にも従わざるを得なくなるのだ。そして何よりもそうした報道が選手をスポイルし、世界レベルで強くなるのを妨げていることに目を向けるべきだ。