横浜市の太陽光発電システムへの疑問

 横浜市が推進するスマートシティプロジェクト(YSCP)の一環である、太陽光発電システムの家庭への設置を呼び掛けるリーフレットが、最近我が家の郵便受けに何回か配られた。これは再生可能エネルギーを有効活用する新しい社会システムの構築を目指したもので、経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム実証地域」に、横浜市が昨年4月に選定されたために5年間の実証実験に取り組んでいると紹介されている。菅総理が最近様々なところで発言している自然エネルギーの活用は、経産省が以前から取り組んでいたもので、菅総理が独自に考えて国民に訴えたものではないということが分かる。

 具体的には、太陽光発電システム(PV)を一般家庭に設置することで家庭での電力需要をまかない、市は各家庭からそのデータを集め、分析し、地域単位ごとのエネルギー有効利用に役立てるということらしい。PVによって得られる電力とその消費量を家庭のパソコンなどでモニターし、インターネットでデータをプロジェクト本部に提供する仕組みをホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)と言っている。これを推進するためにこのプロジェクトに参加し、PVを設置する家庭には20万円の補助金が出る。これは通常のPV設置の補助金(国から14.4万円、県・市から9万円)に加えて支給されるものなので、これに参加しない場合と比べて20万円安くなるはずである。

 しかしリーフレットでは通常負担額181.6万円に対し、このプロジェクトでの負担額(PVとHEMS)が123.6万円となっている。その差は58万円である。何故20万円ではなく58万円になるのか詳細をみると、なんとPVのコスト(このプロジェクトの場合はPVとHEMS)が通常205万円に対し、このプロジェクトの場合167万円になっていて、58万円の差のうちの38万円はここからきているのである。

 何故通常に比べ、このプロジェクトに参加すると38万円も安くPVが設置できるかの説明はどこにもない。このプロジェクト推進のために市が業者と
交渉してコストを下げさせたとか、日本中でこれを行うので国が通常より大幅に安く買い入れることが出来たとかの説明がないのだ。ただ通常205万円、このプロジェクト167万円となっているだけである。こんな曖昧な説明ではPVそのものの品質なり、性能が違うのではないかとの疑念さえ生じる。横浜市のこのプロジェクト責任者は、こんな説明で総費用が58万円も安くなると市民が信じると思っているのだろうか。あまりに人を馬鹿にした話だ。

 こんなやり口は年寄りを騙す詐欺と同じだ。あまりに幼稚なのでまともな人は相手にしないだろうが。こうしたやり方がもたらす最大のディメリットは、このプロジェクト自体の信頼性を決定的に損なうことだ。私は以前からPVには興味を持っていたので、昨年か今年初めにこのプロジェクトのことを聞いたら参加しようと考えたかもしれない。しかしこのリーフレットを読んだり、ここに書いてあることを説明されたりしたら、参加をやめる。何故ならこの説明はあまりに怪しいからだ。性能が落ちる商品を安く売り付ける手口だとしか思えない。もしこのリーフレットの説明が、プロジェクトの補助金の20万円分安くなるという簡単なものだったら、参加の気持ちは強まったと思う。


 参加の気持ちが強まるといっても、それは昨年か今年の初めだったらの話だ。3月11日の大震災以降、話は変わった。菅総理が言ったことだが、東海大地震がこの20-30年のうちに起きる確率が70-80%とのことだし、三浦半島活断層による地震も同じような確率で起きるとの報道もあった。これを受けて菅総理浜岡原発の停止を発表したが、その後は特に東海地震への対策は打ち出さず、PVを1000万家庭に設置するなどと言っている。一月半ほど前'菅総理続投'のタイトルで書いたことだが、PVを設置する金で地震対策、高速道路の強化、液状化対策、護岸工事、老朽化した住宅の補強等やることはもっとあるはずなのに、まったくそんな気配はなく、これで予想通り東海地震が起こったらどうするつもりなのか疑問を持たざるを得ない。

 そして同じことを横浜市に対しても言いたい。これだけ高い確率で大地震が起きるとされているのに、その対策が取られているとは思えない。対策と言っても3・11の前の計画と変わらないままだ。あたらしい情報に対応して計画を練り直すのが当然のことだと思うのだが。もし状況の変化にあわせて計画を変更しているなら、このスマートシティプロジェクトによるPV設置も見直されて当然だろう。それがなされずに、相変わらずPV設置を促すリーフレットを配布していることが、上述したコストに関するお粗末な説明以上に重大な問題だ。今回の大震災で地殻変動が起こり、70-80%の確率で神奈川または周辺に大地震が起きると予測されている。それは昨年までの地震予測よりはるかに切迫したものであるはずだ。まして大都会横浜は海に面し、地盤も弱いとされている。家屋の倒壊も心配だ。そんな時にPV設置でもないだろう。自然エネルギーの利用は重要だが、家そのものが倒れてはPVが無駄になってしまう。明らかにプライオリティの設定に誤りがある。横浜市の市長はどう考えているのだろうか。全くメッセージが伝わってこない。

 日本そのものの最高責任者が迷走しているだけではなく、大都市横浜の市長も何のリーダーシップを示さない。問題意識があるとさえも思えない。私たちは問題意識の欠けたリーダーを持ちながら、滅びてゆくのだろうか。そんなことはご免だというのなら、なんとかしてまともな人を選び直す方法を
考え、直ちに実行しなくてはならないだろう。東北を早く復興させるためにも、出来るだけ早く総選挙を実施すべきだと思うし、横浜市長についても再選挙をして民意を問うべきだ。