’継続する’ことと’知恵を出す’こと

 春らしい日が続く中で、プロ野球が始まった。私の事務所からも横浜スタヂアムの歓声が聞こえ明るい気持ちになる。大リーグでもイチロー、松井、黒田が活躍しているし、ゴルフのマスターズでは石川遼とアマチュアの松山が頑張った。こうしたスター選手のひたむきなプレーは確かに私たちの気持ちを盛り上げてくれる。彼等が願う'震災被害者に元気を'という目的は達成されているのだろう。

 しかし一方で被災地の人達が相変わらず厳しい状況にいるのは変わらない。親を失った子供達、家族の行方がいまだに分からない人達、中々進まない仮設住宅の建設、そして先行きが見えない原発事故の後始末等々、問題は依然山積みで、被災地の人達はスポーツを楽しむ余裕などないのかもしれない。そう考えるとスポーツ選手の活躍で勇気づけられているのは、被災地の方達より被害のない私たちのほうだといった気がする。私たちが元気になることが被災地へ一層支援することに繋がると考えれば、それも意味のないことではないのかもしれないが、とかく何事も忘れやすい私たちは、他のことに関心を持つほどに以前の大災害の記憶を薄めてゆく。まして皆それぞれ生活がある。仕事が忙しかったり、色々な悩みや問題が生じるとそれで頭がいっぱいになってしまう。

 野球もゴルフも始まった今、テレビ局などは早く出来るだけ通常の番組に戻したいと思っているようだ。それ自体は一概に悪いとは思わないが、早く昔の状況に戻すことが日本経済の活性化につながり被災地の復興に役立つという論理があまりに強調されると、私たちは震災のこと、被災者のことへの関心も失っていくのではという不安を感じる。今私たちに必要なのは被災された人達を助けよう、被災地の復興を出来るだけ支援しようと気持ちを持ち続けることだと思う。とは言っても上述したようにそれは簡単ではないから、私たちがそれにかかわり続けるような何かの仕組みを作るのが良い。わたしが支持するのは期間と用途を明確に限定した消費税のアップである。復興に莫大な費用がかかるのは明白だし、その財源もないのだから何らかの手を打つ必要があるのは皆合意するところだ。国債の発行を主張する人もいるが、私はそれは一般庶民にとってリモートに感じられ、支援を継続しているという実感が乏しくなるという点であまり良くないと思う。国債の引き受け手の財源は庶民の預金などだから、結局国民が負担しているとの論理だろうが、一般国民はあまりそんな実感がないだろう。その点消費税のアップの方がはるかに自分たちが負担している、復興に力を貸しているといった気持ちを持てる。問題は消費税が国民に嫌われやすいことだ。結局菅総理が国民を説得し、導入を決断できるかにかかっているとなり、また暗い気持ちになってしまう。


 一方で大震災の結果、深刻な電力不足に直面すると、人は色々な知恵を出そうとする。これまでは当たり前に思っていたか、少し変だと思いつつも強い問題意識を持たなかったことについて、もう一度よく考えてみようとなる。石原都知事が言った自販機などはまさにその例だ。鉄道を見ても、駅の切符売り場のそばに数台、階段の踊り場に一、二台、ホームの上下線にそれぞれ一、二台とあり、私も以前から何でこんなにあるのだろうと思っていた。椎名誠氏も、日本の技術を生かして夜中に自動的に照明を落とすなどの省エネ化をすべきだとドイツ人に言われたと書いていた。まったくもっともで少なくとも大幅に数を減らし、かつ省エネ対策をした機種を増やすべきだと思う。もちろん飲料会社は反対でテレビでも反論をしていたが、これからは従来通りの生活スタイルをやめようという議論をしているのだから、こうした反対にかまっていてはいけないと思う。

 もっとお粗末なのは蓮舫節電啓発担当相の振る舞いだ。石原都知事に節電を依頼しに行った時に、スーパー堤防の予算削減について批判をされたことが相当頭に来ていたようで、石原氏の自販機撤廃の発言に対し、自販機の売り上げが1.9兆円で清涼飲料水全体の42%だと細かい数字をあげて、こうしたビジネスにかかわる人達のことを斟酌しないのはいかがかと批判した。どうせ身の回りの茶坊主が数字を探してきて見せたのだろうが、それに乗って反論する態度は与党の大臣とは思えない。わたしは蓮舫氏にはそれなりの期待もしてきたが、子供の喧嘩のような今回の振る舞いには、まったくガッカリした。民主党の議員には世間知らずで幼稚な人間しかいないのだろうか。総理も総理なら大臣も大臣だと言った感じだ。オリンピック誘致の件でも引き合いに出して、少し皮肉を言う位なら良いが、節電のアイデアを出した石原氏に分がある状況なのが全く読めずにまともに反論したりして、この人が海千山千の外国人と外交交渉などに関わったらどうなるかと思い暗澹たる気持ちになった。その後民主党の都議連が自販機の制限を検討するに至っては、もう漫画であるが蓮舫大臣はこの身内の提案にも反対している。国をあげて難局を乗り切るアイデアを出そうという時に、子供の喧嘩をしたがる人は即刻退場してもらいたい。