国民の意思表示への対応

バレーボール元日本代表の川合俊一氏が、海老蔵について事件の後のインタビューで「あの人は人を怒らせる天才だ」と答えていたが、これに倣うと菅総理は'国民をガッカリさせる天才'だと言えるだろう。川合氏は海老蔵によほど不快な目にあわされたので、ああした発言をしたのだろうが、国民の声を無視した菅総理の居座りには、怒ることすらむなしく感じる。

 私が怒りとむなしさを感じる理由は簡単で、菅氏が国民の意思表示を無視しているからだ。頻繁に総理が変わるのは良くない、大震災の復旧が最優先だとの発言に反対はしないが、それらは国民が発している異議を無視する理由にはならない。従って衆議院議員は4年の任期をかけて仕事をすべきで、解散はする必要がないという菅氏の発言にも正当性は感じない。

 議会制民主主義では国民は選挙を通じてその意思を示す。政党や内閣への評価や支持は選挙の結果としてあらわれる。2010年の参議院選では、民主党は勝敗ラインと言われた従来の議席数54を10減らし、連立を組む国民新党も3議席全てを失うという与党の惨敗だった。しかし菅政権はこうした国民の評価に対し、明確な対応も責任も取らなかった。鳩山迷走政権から移行したばかりの菅政権が解散して総選挙をするのも無理だろうと、国民は我慢して(そうする以外に方法はなかった)菅内閣の今後を見守ることにした。しかしその後も国家財政にも外交問題にも、有力者として長年国会議員をしてきた人物とは思えない見識のなさを露呈し、国民に不安感を与えた。国民の評価は今年の統一地方選にも表れ、民主党参院選に続いて惨敗を続けた。こうした国民の意思表示にも、地方選の結果は直接国政に影響を与えないと言う理由で、自ら責任を取ろうともしなかった。その時に起こった大震災への対応が緊急であったのは理解できるとしても、国民がこれだけ菅政権への不信任を示しているのだから、震災後6か月以内に内閣総辞職するとか、解散をして菅政権および民主党政権運営に対し国民の信を問うとかのメッセージを発して復興に取り組むべきだった。

 それどころか菅総理がしたのは国民のためと言う名目での延命でしかなかった。自らの不明と失政を隠すために国民を人質にとるという、国家の最高責任者としてはあるまじき態度であった。菅総理の退陣三条件(国民に支持されていない総理が辞めるために条件を出すなど言語道断だと思うが)が揃いつつあるので、いよいよ辞めるのではという報道がなされているが、どうも簡単に引き下がる人には思えない。田原総一郎氏が中々退陣を表明しない菅総理について、'これだけ言われても辞めないと後は殺すしかない’といった趣旨の発言をして顰蹙を買っていたが、殺すとまでは言わないまでも、多くの人達が同じような気持ちを抱いていると思う。国民を無視して菅総理がまだ居座るようだと、本当にテロに訴える人間が出てくるのではないかと不安に思う。菅氏の常軌を逸した言動は、そうした愚かな行動を誘発しかねないほどのものなのである。万一テロのようなことが起こったら、この国の民主主義は危機に瀕すると思う。暴力に訴えることで事態が進展すると勘違いした人間はまた同じことを繰り返し、それは益々過激になってゆくからだ。民主主義の原則を無視して総理の座にしがみついた総理が、それ故に民主主義を葬ることになる、そんな事態を招いてはならない。深い思慮なく菅政権を擁護し続けてきた学者や新聞社の責任はとても大きいと思う。菅総理が退陣する時は彼等も責任を取るべきだ。そんな学者の本は買わない、そんな新聞は購読しない、せめてこれ位の事を私たちもやっていかなくては、この国の劣化は止まらないとおもう。