エクソン撤退;読売報道の危うさ

 10月1日付の読売新聞にエクソンモービルが日本の小売り事業(ガソリンステーション)から段階的に撤退することが明らかになったとの記事が載った。この時点では読売だけの報道なので特ダネかと思いきや、朝日、日経等の他紙は翌日に、ガソリン需要の将来的な落ち込みを予測したエクソンが小売り事業の縮小と再編を進めようとしていると報じ、読売より冷静な見方を示した。朝日は日本のエクソンモービルの営業担当役員の'撤退することはない'とのコメントまで紹介した。明らかに読売の記事は憶測による先走りと言えるだろう。

 エクソンの小売り事業の見直しはこの業界に詳しい人なら当然ありうると考える範囲(少し前の流行語なら想定内)のものだが、読売はそれを日本から撤退とセンセーショナルに報じたわけで、この時期になんでこうした記事を掲載しようとしたのか理解できない。読売の記者、編集幹部はこうした記事が与える影響、またはこうした気事を掲載することで生じる憶測について考えたのだろうか。

 私がこの記事に嫌な感じを持つのは、日本で上場しているエクソンモービルの子会社である東燃ゼネラルの株価への影響があるからである。東燃ゼネラルは石油精製を主体とした企業だが、日本の石油業界の上場会社の中では最も財務体質が強いと言われる会社で、その高配当で知られている。株価に対する配当率は4.5%を超えている。最近ではこの位の配当率の日本企業も増えてきたが、同社は10年位前、大半の企業の配当率が1%ほどの時から4%位の配当をしてきたのである。この半年位の株価は800円位で推移していたが、この間に信用売りが非常に増えて最近の貸借倍率(信用売りに対する信用買いの比率)は0.34であった。これは信用で買おうとする人の3倍、売ろうとする人が多いことを示している。言い換えれば800円前後だった東燃ゼネラルの株価が下がると見ていた人が数多くいた、または大きな信用力を持つ投資家がそう考えたということだ。同社に対して何故こんなに信用売りが増えているのか、わたしはずっと疑問に思っていた。

 信用取引は6カ月以内に決済しなくてはならないのでその間に株価が予想した方向に動かないと投資家は損をすることになる。信用売りの場合は株を借りてそれを売るわけだから、6か月以内に買い戻さなくてはならない。この買い戻す価格が先に売った価格より低ければ、その差額が利益となる。直近の東燃ゼネラルの株価は9月28日では786円、30日には775円前後(この日の正確な数字は覚えていないので株価チャートから見たものです)だったのが10月1日には759円、週明けの4日には最低で702円まで下がった。何カ月か前に800円位で信用売りしていれば約100円の差益である。

 東燃ゼネラルのような優良会社の株が空売りの対象になること自体を奇異に感じていたので、今回の報道による株価変動もそうした目で見てしまうのだ。まさか読売がそんな意図を持って記事を書くとは思えないが、従来の常識からはありえないようなことが起こる時世だ。特捜検事が犯罪の証拠を捏造することを考えたら何でもありうると思う。マスコミには自らの報道が与える影響について真摯に考えた報道をしてもらいたいと思う。