悪い夢

いわゆる総合雑誌経済誌などを読むと、いかに日本の現状が危機的かという記事があふれていて、本当にこの国はどうなるのかと考えてしまう。国家財政は破綻寸前だし、その影響で年金制度、医療制度が壊滅の危機にひんしている。企業はグローバル競争の中でコスト削減による短期的利益を重視するあまり将来を担う若者を雇用することに慎重になり、多くの若者が将来を悲観して憶病になるか、引きこもって家族に暴力をふるったりする。


従来の日本を支えてきたシステムが機能しなくなっている結果なのだから、制度そのものの分析と評価をしてから、対策を考えればよいと思うのだが、どうもマスコミなどの取り上げかたは情緒的で、制度そのものの是非を論じているのか、制度が機能しなくなった社会の構造変化を議論しているのか明確でない。そうした姿勢で記事を書くから徒に危機感を煽るだけでどうしろといっているのかさっぱり分からない。

もっと困るのは専門家の間でも意見が両極端なことだ。政治とか経済はやり直しがきかないから、問題解決に関して学者や専門家の間で意見がわかれるのはやむをえない点もある。国際的にも国内的にも様々な要因が絡み合っている現実の中で、ある制度を変えようとして全てのステークホルダーを満足させるということはあり得ない。どの位置に立つかで選択する答えが違ってくるのは当然でもある。普天間の問題がこれほどこじれたのはみんなを満足させようとしたか、最低限誰の満足が必要か明確でないまま話を進めたことにある。

しかし現実の制度に対する評価が正反対だったりすると素人はどちらが正しいのか混乱するだけだ。年金制度一つとってみても、現行の制度には年齢構成の変化が組み込まれて設計されているから崩壊することはないという意見と、近い将来間違いなく破綻するという意見まである。まあどちらも商売で書いているのかもしれないが、学者などの肩書を持っているなら現実を誠実に伝えることは最低の責務だろう。

田原総一朗氏が文藝春秋5月号で歴代総理4人の思い出を語っているが小泉純一郎氏の話は興味深い。当時の小泉首相構造改革を主張して公共事業を減らしていたので経済界が不満を持っていて、田原氏に首相に意見してくれと頼んだ。「あなたは耳が聞こえないか、聞こえても理解する能力がないのではないか」と経済界が言っていると田原氏が質すと、小泉首相は「僕は勉強していないから、頭が悪い。僕の周りには東大出の官僚が多いけど、そいつらのいうことはまちまちで、インフレターゲット論をいう者もいれば、財政再建を主張する者もいる。これをまともに全部、聞いていたら、ノイローゼになる。たぶん、僕より前の首相はみんな半分ノイローゼでやっていたんじゃないか。僕はそうなりたくないから、いうことを聞かないんだ」

そして小泉首相は経済問題をすべて竹中氏に丸投げしたという。経済問題だけでなく、郵政民営化でもそうだった。小泉首相は何を変えようというセンス、そのためにはどんな戦略が必要かという点では極めて高い能力があったと思うが、新しい制度をどうするかという点にはまるで興味がなかったというか、そもそも制度とはどうあるべきかという哲学も考える頭脳もなかったように思える。一国の首相たるもの政治的センスだけでは不十分なのでしっかり勉強をした頭脳明晰な人になってほしいとつくづく思う。


今の首相に話を戻すとあれだけ問題が山積して、かつ打開の方向さえ見えないのに、人ごとのような発言を繰り返し、何故か自信さえ感じさせるのは何故だろうかと考えてしまう。普天間の問題も5月までには責任を持って解決すると言いつつもうすぐ5月になる。客観的に見て事態がドラマティックに進展するとは全く考えられないのに同じ発言を繰り返している。

それが宇宙人と言われる所以なのだろうが、宇宙人として何かが見えているのかもしれないとさえ感じる。将来に対する不安が宗教を生み、学問を発達させた。しかし首相にそんな不安は感じられない。地震が頻発する中国では次は北京で大地震が起こるとの噂が飛び交っているそうだ。背景には急速な経済発展への不安と不公平な富の配分に対する不満があるのかもしれない。こんな状態が長く続くはずがないという思いと、政府とつながった一部の人達が甘い汁を吸う状況をガラガラポンしたいという願望が噂を広めている気がする。

現首相に見えているものが東京の直下型大地震ではないだろうが、確かに東京に大地震が起こったら普天間も、年金も、参院選挙も吹っ飛んでしまう。そんな悪夢が起こらないことを祈るばかりだが、学者たちは東京直下型か東海地震はいつ起こっても不思議ではないと言っている。
しかし閉塞状況のガラガラポンを戦争や自然災害で行うことだけは避けたいものだ。自らの意思で行うのであれば少々の苦労や不満は我慢できるはずだ。事業仕分けによる不要な団体の解体など平和そのものにも思える。

本当に首相には何が見えているのだろうか?