ハイパーインフレは来るのか(2)

ハイパーインフレと言えばアルゼンチンだが、IMFのデータによると1975年から1991年まで17年間連続で年間平均100%を超えるインフレを記録した。特に1989年には3080%、1990年には2314%だったという。14年間毎年物価が2倍以上になっていた後で、30倍、さらに23倍になったのである。漫画の世界でもこんなことはないだろう。元来大変豊かで、ブエノスアイレスなどは南米のパリとまで言われた美しい街だったのが何故こうなったのかと言うと、やはり国の指導層の政策上の誤りが続いたということのようだ。トップが駄目だと会社だけでなく国も倒産するという、現代の具体的事例と言えるだろう。


こんな状況になると国民はどう対応するのかと言っても、ほとんど打つ手はないと思う。負け戦を続けているようなもので、国民全体が疲弊し貧困にあえぎ、多くの人が死んでゆくのだろう。しかしこれとて非現実だとは言い切れないのは70年前の日本を考えれば分かることだ。勝ち目のない戦争に乗り出し、圧倒的に不利な戦況でも精神論を唱え、最終的に核爆弾を投下されるまで戦闘を続け無駄に多くの命を失った。国民としては愚かな指導者や危ない政党を選ぶことのないような賢明な選択をする努力を続けるしかない。

アルゼンチンのような事態への対処法を考えてもあまり意味ないとしても、短期間の大インフレの可能性はないとは言えないので、それについて考えておくのは無駄ではないだろう。例えば1年間に物価が2倍とか3倍とかになるケースである。何がきっかけでこういう事態が起こるかは分からないが、日本の財政状況を考えると理由は幾つでもありそうだし、一旦何かが起こると国民の不安が増大し、大混乱になることは十分に考えられる。1973年の石油ショック後とか1980年代の土地高騰などはまさにその具体例である。 250円のコーヒーが1年後には500円になったり、120円のおにぎりが1年で300円になる事態のことだ。食糧などの生活必需品の値段がどんどん上がっていき、金の価値がどんどん下がってゆく。こうなると持っている金で物を買っておくしかない。

ルイヴィトンやロレックスを買ってもそれを食べて生きてはゆけないから、カップ麺やインスタントラーメン、缶詰、水、お茶等の保存のきく必需品を買っておくべきだ。他の人達も同じ発想をするだろうから、これらのものは品薄になり当然価格も上がる。だから準備をするなら早くしないと意味がない。予測が外れたらどうすると聞かれたら、リスクを取らなければ効果的な対策は打てないとしか言えない。政府は価格統制をするかもしれないが、そうなると闇市場が栄え、腕力と金を持つ輩がはびこる状況になるだろう。


資産防衛という観点からはどうだろうか?現金、預金の類が最も影響を受けるのは間違いない。だから金(ゴールド)が良いという人もいれば、いや株だと言う人もいる。不動産や外貨預金のほうが良いという意見もある。しかし良く見てみると、そう主張する人達はほとんどが自分が勧める商品にかかわる人達なので、インフレ不安を煽って一儲けしようとの魂胆が見えるような気がする。そうはいっても現金、預金が頼りにならないのだから他の物に代えておくのは悪くはない。何が一番よいかは分からないが、資産防衛という意味では現預金より悪いものはないだろう。資産防衛は上記の生活防衛に比べ中期的な観点から対応ができるので、今のうちから考え手を打つ時間的な余裕はある。

借金は実質的に軽くなるが、だからと言って今借金してマンションを買えとも言い切れない。ある程度の資産を持っているなら分散しておくのが良いという月並みな結論になってしまう。特に円安になる可能性は高いから安定した国(資源を持っている国)の貨幣や預金を持つのは良いと思う。英語が出来る人ならオーストラリアやニュージーランドへ移住するのも有効かもしれない。いつの時代でも真実なのは、不確実性が高い時に早めに手を打ちそれが上手くいった人とそうでない人との差は大きくなるということだ。

問題はインフレのサインをどう読むかだが、これは非常に難しい。情報を早く手にしたり、政策そのものを立案実施する人達が有利な立場にいるのは間違いない。彼等がそれを利用して自分たちだけは良い思いをしようとせずに国民の利益を守る行動をとることを祈るばかりだ。