ハイパーインフレは来るのか(1)

ハイパーインフレの議論が盛んだ。根拠なく強気の読みを続けていた藤巻健史氏も最近は日本国債の売りを推奨し、野口悠紀雄氏も文藝春秋3月号で国債破綻について書いている。神谷秀樹氏は小幡績氏との対談本の中で、アメリカ経済が国債の過剰な発行によりハイパーインフレになるリスクを昨年半ばに述べているが、実際は日本経済のほうが弱い立場にあるのだろう。何といってもドルはまだ基軸通貨なのだから。


わたしは経済の専門家ではないので実際に日本経済がどう動くかは分からない。専門家の意見を聞くたびにそういう見方もあるのかと思うくらいだ。しかし明確なのはこうした議論が出るのは、日本経済が実質的に破綻状態にあるのにそれを改善しようという国家の戦略がないためだ。国と地方の債務の合計は800兆円を超え、GDPの2.3倍でイタリアの1.3倍、アメリカの1倍を大きく超える。日本にはそれを上回る個人金融資産があるから心配ないという議論もあるが、野口教授はそれもすでに使われているもので当てにならないと言っている。

2010年の予算案は37兆円の税収に対して歳出が92兆円である。その差を新規国債の44兆円と税外収入(埋蔵金)11兆円で埋めている。よくやるようにこれを家計にたとえて説明すると、月給が37万円なのに92万円の生活をしていることになる。そのために毎月44万円の借金をしなければならない。元々2000万円を超えるローン(国債残高)があるのだから、どう考えても無茶な話である。しかし鳩山政権はこれを選択した。将来の破綻に対する手を打つよりも、今の政権維持のための人気取り政策を選んだのだ。

この状況を改善するには収入を増やし、支出を減らすしかない。言い換えれば増税をして、国民へのサービスを減らすことである。従って緊急性のない道路やダムへの出費はやめなくてはならないし、国・地方の議員と公務員も削減する。彼らの給料も大幅にカットすべきだろう。そんなことをすると縮小均衡になり経済は一層低迷するという人達がいるが、これまでもその意見に従ってやってきたが効果は上がらなかったのだ。

国民に負担を強いて財政再建をしようとするなら、まず政治家が率先して姿勢を示さなければならない。鳩山首相小沢幹事長も個人資産をなげうってから国民に我慢を求めるなら、多くの国民の理解は得られるだろう。以前にも書いたように国民は政治家が考えるほど馬鹿ではないというか、政治家ほど馬鹿ではないからだ。


1980年代のバブルが破裂した後に多くの大企業が倒産した。当時高校3年だった私の息子の同級生の父親が勤める企業も破綻した。その時息子の友人は親に「大学をあきらめる」と言ったそうだ。幸いその親御さんは大手の外資系企業に就職が決まったので、その子も大学を出て今は誰でも知っているような大企業で働いている。何にも考えていないような子供に見えた高校生が、親の窮状を心配して進学を諦めることを考えていたことを知って胸が熱くなった記憶がある。自分の力で稼いだ金で人生を生きてきた経験のない多くの世襲議員にはこんな気持ちは分からないのかもしれない。だから財政破綻の危機に際しても無責任な予算編成をして、いつか神風が吹くことを期待して事態を悪化させている。


もしあなたに上述したような財政状況の友人がいて、その人が金を貸してくれといったら貸すだろうか。わたしは貸さない。冷たい奴だと言われても、まず支出を減らせという。車を持っているなら売れ、子供が私立の学校へ通っているなら公立へ変えろ、奥さんも働きに出ろ、子供にもアルバイトをさせろと言う。それをやったら収支が改善することを確認し実行させる。2年くらいそれが続いたら、無利子で金を貸す。ローン残高を減らし金利負担を軽減する。家族も再生の道筋が見えて明るい気持ちになるだろう。これがまともな考え方だし相手のためになると思う。問題を先送りしても事態は悪化するばかりだ。

ハイパーインフレの話は日本経済への信用の話だ。財政悪化を食い止めようとして必死の努力をすれば友人が力を貸してくれるように、諸外国も日本への信用を持ち続けるだろう。そうでないと本当に国債は暴落して誰も買ってくれなくなる。日本銀行国債を買いまくれば金の価値が下がるだけだろう。本当にこんなシナリオが起こるのかわたしには分からないが上で述べてきたように根拠のない話ではないのだ。それでもアルゼンチンで起こったようなことは日本ではないだろうと期待している。経済の基盤が、企業の質と規模が、技術と人材が違うからだ。こうした財産がある限り一定の信用は得られるのではないか。心配なのは政治がそれを毀損するようなことをすることである。
色々書いたが、実際ハイパーインフレが起こった(起こりそうな)時に庶民はどう対処すればよいのだろうか。次回はそれを考えてみたい。