'おとしまえに時効はない' 

小沢一郎氏が検察の聴取後、自ら記者会見を開き国民に対し疑惑を払拭する説明をしようとしたが、必ずしも成功したとは言えない。これについては予算委員会やマスコミの報道で様々な疑問が示されているので、ここではわたしが最も興味を持って聞いた点について議論したい。


私の関心は1)土地購入後に銀行融資を受けていたことの理由 2)自ら貯めてきたという金を家族名義にした理由である。これらを含む明らかに疑惑に満ちた複雑な資金の移動については、何らかの特別な意図をもって行ったと考えるのが普通だが、小沢氏は'やましいことはない'の一点でこれまで詳しい説明をしなかった。従ってもっと大きな問題である建設会社からの献金や裏金については金を渡したという証言があっても、'事実無根で'突っ切ろうとするのは明白であり、こうした大問題について問いだたしても不毛な議論が繰り返されるだけだろうと思う。だからこそこの2点にどう答えるかのほうが、彼の言い分の矛盾を明らかにするきっかけになると考えている。
これに関する小沢氏の説明は嘘に嘘を重ねるという印象を深める以外の何物でもなかった。


1)については秘書がやったようだといういつものおとぼけでやり過ごそうとしたが、4億円もの借金を土地購入後に行ったのを知らなかったというのは全く説得力がない。もしそうなら金銭感覚のズレと、金の管理の重要性に対する意識の欠如は国民のリーダーとして赤字財政の再建を任せることは出来ないことを示している。

2)については、心臓を患ったのでもしものことがあった場合家族が困るだろうとの理由で行ったという。資産家が万一の時、残された家族が相続税の支払いに苦慮するだろうから対策を取るというのは分からないわけではない。普通はそのために不動産や債券と現金のバランスを上手くとって、税金の支払いに慌てないようにするということを考えるものである。万一を心配して自分の金を家族名義にするというのは相続税逃れとしか言えない。半分が配偶者へ渡される場合は無税だし、子供たちにも基本的な控除がありその残りに対して税金を払う仕組みである。簡単にいえば、持っているものより多くは取られないのである。これさえ払わないようにしようと画策する心根が卑しいと思う。一般の人は所得税を払った後で貯めたお金や資産に税金がかかるのはやりすぎではないかと考えつつも、国民の義務だと思い相続税を払っているのである。小沢氏はそうした基本的な義務を果たそうともせずに'やましいことはない'と強弁しているのである。


鳩山首相民主党が今考えなくてはならないのは出口戦略(exit strategy)である。今まで'本人が潔白と言っているのだからそれを信じる'と言って小沢氏を擁護してきた。国民の大半は小沢氏の説明や資金をめぐる行動はおかしいと感じているのに、何も問いただそうとせず、司法の判断を尊重するという言葉に隠れ、自らの思考や批判精神を捨て去ってこの問題をやり過ごそうとした。国民の代表としての責任を果たそうともせず、その矜持も捨て去ってきたのである。上記のように矛盾に満ちた説明を重ねる小沢氏が一層の窮地に陥るのは時間の問題だろう。その時鳩山首相や、おざなりな説明を積極的に支持してきた閣僚達ははどう落とし前をつけるのだろうか。検察のファッショだと言って対抗措置を検討しようとした議員たちはどう説明してゆくのか。よく考えておくべきだ。国民はこれまでの言動を忘れないし、国民は議員が考える程は、いや議員ほどは馬鹿ではない。


今日までの鳩山首相朝令暮改、立場をわきまえない無責任な発言は、責任政党になって日が浅いこと、問題のほとんどが自民党政権の時に作られたという理由で大目に見られてきた。(鳩山氏も小沢氏も自民党の中枢にいたわけだから罪がないとは言えないのだがここではそれは問わないことにする)
しかし今回の小沢氏の土地購入問題は、民主党が与党になった後で明らかになったものである。西松建設問題のように、国民はそれを知りつつ民主党に投票したといった言い逃れは通用しない。腹の据わった、明確な説明と行動が必要である。


内田樹氏が著書の中で60年代のアジびらに書かれていたと紹介している'おとしまえに時効はない'という言葉は、わたしが大好きな言葉の一つだがこれを小沢氏だけでなく、鳩山首相民主党の議員たちにおくりたい。野党時代あれだけ偉そうなことを言ったのだから、また与党になったら手のひらを返して、恥も知性もないことを堂々と言ってきたのだからその落とし前はきっちり付けて欲しい。そうでないならこちらが選挙で落とし前をつけるだけだ。その代わりになる党がないのが問題だが…