タイガーウッズ騒動

タイガーウッズがスキャンダル報道に巻き込まれている。身から出た錆とは言え、単なる道徳論で片付けられるものではない面がある。金、名声、才能、権力、美貌の2つ以上を持つ男には、多くの女が近づいてくる。品行方正を誇る女性でもタイガーと知り合いになれるなら嬉しいと思うだろう。多くの魅力的な女性にアプローチされる男性が、その誘惑にどう対処するか、性衝動をどうコントロールするかは、古今東西、永遠のテーマだろう。


アメリカでもケネディニクソンクリントン各大統領の無類の女性好きは有名だし、日本でも高潔と言われた政治家や、財界人に様々な愛人がいたことは知られている。フランスではミッテランが多くの愛人に子供もいたことを隠そうともしなかった。映画スターなどは独身であろうとなかろうと、恋愛問題は勲章のようにとらえられている。要するに問題になるケースとそうでないケースがある。結婚したら一人の女性しか相手にしない男性は立派だが、そうでないからと言って非難すればよいとは思えない。これは女性にも当てはまる。人間の営みがそれほど単純なら、小説や映画でこれほど多くの既婚男女の恋愛が描かれることなどない。人間とはそういうものだと言わざるを得ない面がある。


ではタイガーの場合、何故これほどの騒ぎになったのだろうか? 一つには彼が築いてきた理想のアスリートとしてのイメージとのギャップの大きさである。9月29日付の当ブログの'ゴルフマガジン50週年記念号'で紹介したロジャー・フェデラーのタイガー評にも、彼はアスリートのお手本(role model)だと書かれている。タイガーはそのイメージを完全に壊してしまった。二つ目にはタイガーが近づいてきた相手と片っぱしから関係をもったような印象を与えることである。これは誰しも過ちを犯すものだという擁護の範囲を超えてしまっている。三つ目はタイガーが夜中に自宅の前で車をぶつけたことから、クラブを持った奥さんから追っかけられたからだとか面白おかしく報道されたことだ。簡単にいえば、実力と知性を兼ね備えた最大級のヒーローが、見境なく多くの女性と関係を持っていたことが明らかになったことの衝撃である。


タイガーの家庭における問題がどう展開するかは分からない。それは彼自身が対処しなければならないことである。CNNのジャスティン・アームズデンという記者の記事によると、エリン夫人をタイガーに紹介したイェスパー・パーネビック(スウェーデン出身のプロゴルファーでUSPGAでも活躍している)がタイガーは昔はもっとまともだった、彼を紹介してエリン夫人に悪いことをしたなどと言っているらしいが、エリンさんの昔からの知り合いだとしてもこれは少しフェアではないと思う。彼女がタイガーを選んだのは彼が世界一のプロゴルファーで最高のセレブであることとは無縁ではないからだ。伝えられる離婚の条件に250億円を超す慰謝料が入っているのもタイガーが相手だからだ。アメリカの莫大な慰謝料は契約を不道徳な理由で破棄することへの罰金とも言える。それは人間の持つ本質的な欲望と社会の規範のバランスをとる知恵なのだろうが、社会制度が持つ潜在的な矛盾を金でおさえようとするアメリカ的な思考の典型とも言える。エリン夫人が怒るのはよく理解できるが、一方でこの慰謝料があるから強気なのだと考えてしまうのは私だけではないだろう。


タイガーのゴルフプレーやインタビューにおける思慮深さを知っていると、女性関係における無防備さが理解できない。ティーグラウンドで慎重に風の強さと方向を読み、攻め方をイメージする慎重さを私生活で何故持てなかったのだろうか。どのような決着をしても彼のイメージ回復は難しいだろうが、彼がこのことで一層の成長をすることを願うしかない。彼は明らかに史上最強のゴルファーへの道を歩んでいる。従来のようなヒーローではなくても、もっと強いゴルファーになって、別の新しいキャラクターとしてプレーをしてほしいと思う。