ラグビーと台風

 ラグビーワールドカップの日本対スコットランド戦は本当に興奮した。ベスト8進出をかけての試合だったので、お互い死力を尽くした戦いだった。体力やパワーそして試合駆け引きなどではスコットランドの方が上だったかもしれないが、スピードと戦術では日本が勝っていて、特に日本は状況に合わせた柔軟性に優れていて多彩な攻めと守りが出来ていた。スコットランドは伝統的な力のラグビーそのものだったが、日本はチームの特徴に合った新しいラグビーを作っているように感じた。こうした特性を生かして日本が勝ったが、どちらに転んでもおかしくない内容の好試合だった。

 

 日本の勝利はもちろんわたしたちを喜ばせたが、試合前にスコットランドチームが台風による中止の可能性について色々とクレームをつけていたこともあって、この勝利は余計に嬉しさをもたらした。スコットランドラグビー協会のトップが台風で中止の決定をしたら法的措置も辞さないなどと発言したのには多くの日本人が不快感を持っていたからだ。史上空前の規模と言われた台風19号に備えて国中が対策を練り、被害を少なくすべく努力していたのを無視するような発言だったのと、試合をやればスコットランドが勝つのに決まっているという傲慢さを感じたからだ。あたかも日本が台風による中止での引き分けを画策してベスト8になろうとしているかのような発言は耳を疑うものだった。だから日本が勝ったことでわたしたちは留飲を下げたし、スコットランドの面目は丸つぶれだ。英国は明らかに落ち目なのにプライドだけは高く尊大で、少し反省したほうがよい。

 

 台風19号は事前の情報提供と注意喚起にもかかわらず大きな被害をもたらした。亡くなった方や家を壊された方のことを考えるとつらい気持ちになる。想定を超える雨による被害が甚大だった。ダムを作ったり、河の護岸工事を行ったりして河川の氾濫等の災害には強くなっているとは思うが、やはり過去の規模を超えるような雨量が起きたりすると被害は避けられない。無尽蔵に予算があるわけではないから一定の想定の下で対策を行うのはやむを得ない。想定を超えた場合、助かるかどうかは個人の行動の問題になる。NHKのニュースでは「命を守る行動を」をとるように繰り返し促しているが、これはその意味で効果的な呼びかけだと思う。しかし予防的な行動をとった場合でも被害にあう人と逃れる人に分かれる。そうなるとやはり運次第という事実は認めざるを得ない。雨の降り方、風の強さと方向、道路や橋の状況等々様々な状況に影響を受けるわけだが、ちょっとした違いが生死を分けることになるのだと思う。今回も橋が落下して車ごと落ちて亡くなった方がいたが、30秒前にその橋を通りすぎたら、または30秒後に差し掛かったら命を落とさずに済んだかもしれない。

 

 台風の進路や規模はきわめて正確に予測できるようになったが、具体的な場所がどれほど安全なのかまでは分からない。わたしが住む横浜市金沢区の海の近くでは台風15号の方が被害は大きかった気がする。これは台風の進路の微妙な違いによる気がする。同じような進路でも個別に見ると大きな違いがあり被害の差になったのだと思う。わたしの家の隣にある野島公園では15号の時は大きな木が根元から倒れたのが何本もあったが、今回は1本も倒れなかった。しかし今回の19号でわたしの家の駐車場の門は風で倒れ、駐車場の屋根の樹脂のパネルの一枚が飛んでしまった。前回は公園で大きな被害が起きたが、わたしの家は大した被害はなく、今回は公園は大丈夫だがわたしの家の駐車場が壊れた。こんなことは30年以上住んで初めてのことだ。

 

 たぶん風向きの違いが影響したのだと思う。ここまでは気象庁は予測しない。だから個人の判断が重要になるのだ。我が家の駐車場の門は小さな車輪がついて横に引いて開け閉めするのだが、左右の端をとめて固定する。これに加えて門の真ん中下部に付いた金具をコンクリートの床のフックに通して補強することが出来る。普段は面倒なのでそれを使うことはないのだが、台風の時などはそれを使って補強していた。今回もやるつもりだったのだが、土曜日に雨が強くて億劫な気がしてやらなかったのだ。その結果門が倒れてしまった。やるべきことはしっかりやらないとこういう羽目になる。しかしやはりそれだけではない運のようなものも感じてしまう。上述した公園の被害のように我が家の周りではそれほどひどい状況には思えなかったのだ。また駐車場の屋根のパネルが飛んだことに対しては対策の打ちようがなかった。自然相手だと判断に迷うことが多いし、最善を尽くしてもどうにもならないこともある。これは人生そのものにも言えるのではないか。そうなると最後はそれに負けない気力が重要になってくる。なんだかラグビーと同じようだ。