ギターを弾こう(2)

 わたしが買ったギター教本は「定番フレーズから始めるアコギ・トレーニング」というタイトルでCD付きである。アコギとはあくどいということではなくてアコースティックギター(生ギター)のことのようだ。北条真という人が書いていてCDの演奏もしている。ヤマハ音楽教室などで教えているらしく、他にもブルースハープウクレレ教則本も書いている。

 この本は7つの章から成り立っていて、第一章はベーシック、第二章ピック、第三章フィンガー、第四章スライド、第五章パーカッシヴ、第六章ソロ、第七章スコアとなっている。七章まで行けば載っている譜面に従ってエリック・クラプトンの’Change the World'や山崎まさよしの'One more time, One more chance'などが弾けるようになるというわけだ。この他にもDEPAPEPE押尾コータローの譜面もあり、この点がわたしがこの教本を買う決め手となった。

 年の初めに1年でこれを完了しようと考えて始めたのだが、これが中々大変なのである。わたしのような音楽センスのないジジイが、この目標を達成しようと思ったら、ギター中心の生活をしないとダメだろう。いやそれでも無理かもしれない。今のわたしは何かするという必要や責任などとは無縁の人間だが、なかなか忙しく、ゴルフの方がプライオリティは高いし、色んな旅行にも行くし、家庭内の行事や頼まれごともある。そしてたまには仕事もする。だからギターはその合間にやるということになる。

 元々ギターが上手かった人やほかの楽器を習熟した人なら簡単なのだろうが、そうでない人には空いた時間でやるなどという姿勢では通用しない内容なのだ。わたしがどこまでやったかというと第二章のピックの途中であり、そこで止まって前に進まない。まるで大雪で立ち往生した車のようである。

 第二章はこの教本でもっとも多くのページを費やしてあり12の項目からなっている。少し紹介すると第1が’4ビート、8ビートのストローク’、第2が’シンコペーションに惑わされるべからず’、第3が’ブラッシングの出すグルーヴ感’、第4が’16ビートでかき鳴らせ’となっていて、わたしは二章の第4で止まっているのだ。この後も’ファンキー・カッティング’、’12/8拍子に挑む’、’最重要テク!アルペジオ奏法’等々と続いていく。まだまだ先は遠くこの第二章がいつ終わるかもしれない状況なのだ。
 その上第二章の途中まで来たといっても、’シンコペーションには惑わされっぱなし’だし、ブラッシングにはまるでグルーヴ感がないことも言っておかなくてはならない。

 前途多難で意気消沈しそうなところに追い打ちをかけるのが付属のCDである。シンコペーションとかブラッシングとか譜面だけではもうひとつ分かりにくい時に聴くのだが、これがまた凄い。プロだから当たり前と言えばそれまでだが、リズムの切れ味、和音の美しさに感心するだけでかえってやる気が削がれてしまいそうだ。一生かかってもこんな音は出ないと確信し、勉強ができない子供のような心境になる。もっともこれはわたしがいけないので、CDがついていることのメリットはとても大きいことは言っておかなくてはならない。このお手本を繰り返し聞くことで独習でも誤った方向に進む事を防いでくれる。テクノロジーが学習の効果を上げる良い例である。しかし「それでもなあ」という気持ちにさせられる。

 こうしたことは別にギターの練習に限った事ではなく、ゴルフの教本でも同じだ。江連忠や内藤雄士のような有名コーチのビデオを見ても中々力強い捕まった球が打てるわけでもない。しかし江連や内藤はいとも簡単に、しかも軽く振っているように見えても、とても力強い球を打ち、感心するだけではなくがっかりもしてしまう。

 何事も死に物狂いで打ち込んでこそ、ここまで行けるのは分かるのだがそれが出来ない。だって向こうはプロでこちとらは趣味なんだからというのが本音だ。それでも素人なりに上手くなろうと思えば、短期間で集中する方が長くだらだらやるよりいいことも分かっているのだが、それもできないのが凡人の典型なのだ。

 こうネガティブな事ばかり書くと、いいことなんてないようだがそれがそうでもないので、人生は楽しいのだろう。なんというか生活に潤いができるのだ。このところいろんなギターや歌の演奏を聴くようになった。教本だけでは飽きてくるのでカーペンターズやジョン・デンヴァーの曲を弾いたり歌ったりする。すぐには上手くいかないから彼らの歌をYoutubeで聞きながら細かいところを練習するのだが、その時に色んなミュージシャンが同じ曲を演奏しているのを知り、それを聴き比べるのが楽しく新鮮だ。

 特に驚いたのは南澤大介という人の’Top of the World'だ。いわゆるスリー(フォー)フィンガーでチェット・アトキンス風演奏なのだが、技術もアレンジも素晴らしい。この人のは他にもアニメやクリスマスソングがYoutubeで楽しめるがどれもごきげんだ。この人の「ソロ・ギターの調べ」というCD付きの教本は、楽譜集としては異例のベストセラーになり何十万部も売れたそうだ。わたしだって欲しくなった。

 今のギター教本がもし、万一終わったら新しいギターを買って、この人の楽譜集を買おうと思う。南澤さんはモーリスのギターを使っているようだが、わたしはヤイリを買おうと持っている。ヤマハもいいが外国の有名プレーヤーが使うようなのは何十万から百万を越すようなのでなしだ。ヤイリなら売ってしまったバンジョーと同じか少し高いだけだろうと思う。インターネットでギターを見ているのもなかなか楽しい。新しいドライバーやアイアンセットを買うときのようでもあり、車を買い換えるような気持ちにもなる。問題はそんな日が来るのかということだ。良くないシナリオは、上手くならないがギターだけを良いものにすることだが、これがlikelyなのが怖い。