円安と株高

 円は昨年9月以降、対ドルで76円から78円で推移していたが、今年の2月半ばから円安に振れ83-84円レベルになった。ユーロに対しても、今年の1月半ばには100円以下だったのが、現在109-110円まで戻った。
 
 一方、日経平均も昨年9月から8500円前後で推移していたが、1月後半から徐々に上がり始め、2月半ばに9000円になると、その後ひと月で10,000円を超えてしまった。円がドルとユーロに対して10%ほど下落した間に、株価は15%以上あがったのである。 米国のダウ平均は、昨年9月頃には10,500-11,000ドルだったのが先週末で13,200ドルと、20%を超す上昇となっている。

 これらの数字を見ると明らかに流れは変わったように見える。私たち一般投資家が考えるべきは、この流れに上手く乗り、そして上手く降りることだ。その時に間違っても専門家の意見などに従ってはならない。この流れを利用して利益を確定することだけを狙うべきだ。

 こう書くと「そんなことは分かっている。知りたいのはどこまで株価が上がるかだ」という声が聞こえてきそうだ。それが分かるなら、私だって知りたい。だから雑誌などでは「円安、株高はどこまで続くか」などと言った特集が組まれる。しかしそんな雑誌を読んだり、専門家の意見を聞いても’どこまで行くか’などは決して分からない。私が言えるのは「下落するまでは上がる」ということだ。「馬鹿にするな」と言われそうだが、これ以外の真実はない。この意味が分からないなら、株などはやらないことだ。

 これでは議論にならないので、もう少し冷静に事実をみてみよう。日経平均を構成する企業で、電気、機械、自動車などのセクターは海外販売への依存高が大きく、円高は利益減少の大きな要因である。だから円安に振れることはこれらの企業の収益改善につながり、株価が回復し、日経平均を押し上げる。またユーロ危機のあおりで、日本のメガバンクの株価が大幅に下落していたのが、回復基調にあることも日経平均が上がる要因である。

 
 問題は何故円安に振れているかだ。米国の雇用統計が改善していること、大手の金融機関が一部を除いて、いわゆるストレステストに合格したことなどから、米国経済が回復基調にあるという見方が出ている。またヨーロッパもユーロ危機回避のために、各国が資金導入に合意したことで当面の危機はなくなったと言われている。よってドルやユーロが買い戻されているのだ。 私はこうした背景は認めたとしても、事態が改善しているという説明は、十分に信用できない。米国の経常収支は相変わらず大赤字だし、ギリシャやイタリアの経済が良くなっているとは決して思えないからだ。

 今回の円高の原因は、金余りの中で、比較的安全な資産として円が買われたことだといわれている。ドルに対して76-77円のレベルはやはり行きすぎだとは思うが、ドル安の根本原因が改善していないと判断すると、円安に振れる理由も薄弱な気がする。米国の株価をあげたい人達が、これはオバマだけでなく全米国人かもしれないが、そろそろドルを少し高くして、株高にしたいと考えたからにすぎないのではないか。ユーロも同様だ。とすると、現在のドルやユーロの戻りは、チョッとした悲観的情報や思惑で、簡単になくなってしまうだろう。現時点では株価回復のモーメンタムが強いので、イケイケの雰囲気だが決して安心はできないと思う。

 考慮すべき点があるとすれば、円安が行きすぎだったこと、日本の大企業の株価が実力以上に下がっていたと思えることだ。だから日本の株価は、何かのきっかけで米国やヨーロッパがまた下落に向いたとしても、相対的には持ちこたえる力が強いかもしれないと思う。まあこれも比較の問題だが。 

 わたしは今の株価の上昇はどこかの時点で突然終わり、また9,500円くらいに戻っても不思議はないと考えている。株価とはそういうもので、そんな事態が起るといつも、もっともらしい説明がついてみんな分かった気になってしまう。だから今株を持っている人達はいつでも売る体勢でなければならない。それが1週間後なのか、3ヶ月後なのかは、個人の理由による。その人の経済状況や株の収益状況、資金の必要度等々で売る時期が変わってくる。明日売っても儲けが出る人は明日売っても良い。ひと月待てばもっと儲かったのになどと考えていると、結局儲け損なうのだ。儲け損なう原因になるのは、専門家の意見を聞いたりするからだ。誰もどこまで上がるかなどは分からない。それを言っている人達は、それを言うことで儲けているので、株で儲けているわけではない。

 ある週刊誌で13人の専門家が年末の日経平均を予測した記事があった。そのうち4人がレンジで答え、最も幅が小さいもので9,500円-10,500円、大きいものだと9500円-12,000円となっている。しかし9,500-12,000円を予測と呼べるのだろうか。こんなものなら誰でも言えるし、何の情報にもならない。専門家と言ってもこんなものである。

 わたしはごく一部だがすでに利益確定の処分をした。だいぶ前からここまで来たら売ろうと思っていたものだ。その後それらの株はまだ上がっているがそれで良いと思っている。残りについてはもう少し様子を見る。またどこかで売るとは思うが、全部処分して現金化することはないだろうと思っている。確率は小さくてももっと上げの勢いが続く可能性も否定できないからだ。