大学生の就職難に見る学生と社会の問題点(2)

 大学生の就職難の原因として前回、多くの学生が大企業志向であること、学生自体に企業が求めるスキルや能力が不足していることをあげた。もちろん大手企業が採用に対して慎重になりすぎていることもあるが、猛烈なコストカット競争を強いられている企業がミニマムな採用に抑えたいという気持ちは分からないでもない。政治家は大企業を批判するが、無理な採用をして収益が悪化しても、経営が危うくなっても政治家が助けてくれるわけではない。彼等の発言の大半は大衆受けを狙った無責任なもので経営者もまともに付き合ってはいられないのだ。
 
 私が本当に深刻な問題だと感じるのは、前回も書いた多くの大学生にセールスバリューがないことである。この責任の大半は学生というより学校教育さらに言えば社会にある。中学、高校、大学と習っても上達しない英語、国語や数学の基礎的な学力の欠如、多くの大学における面白くない、そして学生が興味を持つものにしようと言う努力がされていない授業、これらを放置しておいた結果今のあり様になっているのだ。政治家や文科省は今の就職難を不景気の結果の一時的な現象と考えているようだが、こうした学生のレベルでは景気に関係なく就職は簡単ではない。グローバルに見て使えないからだ。海外と取引をする多くの企業は今後も日本人の採用を減らし、外国人の採用を増やそうとすると思う。

 雇用、雇用と一国の総理としては情けない発言をしている菅首相も、目の前の問題を軽減して点を稼ごうとするのではなく、もう少し本質的な部分に注目して、中長期に日本の若者をグローバルに競争力のあるタフな人材に育てるためにはどうすべきかを論じて欲しいと思う。就職難を論じる政治家は多いが、そのほとんどが大衆受けを狙ったもので、就職難の本質的な問題は何か、それをどう解決するのが若者と将来の日本にとって良いのかを論じていないのが情けない。

 わたしがアメリカ人に対してよく言ったジョークを紹介しよう。'二ヶ国語が話せるのをbilingual、三か国語以上を話せるのをmultilingualと言うが、一か国語しか話せないと言う人を何というか?' 勘のいいアメリカ人は何人かに一人いて正解を言うが、多くは考えたままだ。もちろんmonolingualなどと答えるのはいない。正解は'American' である。答えを聞いてほとんどのアメリカ人は笑うが、内心は面白くなさそうだ。彼等/彼女等は陽気だがプライドは高いのだ。その点、このジョークを聞いたヨーロッパ人は大変面白がる。彼等の多くはmultilingualだが、英語しか話さないアメリカ人がえばっているのが癪に障る事もあるのだろう。

 しかしこのジョークを大学生を対象にするなら、正解は日本人学生とした方が良いような気がする。もちろん大半のアメリカ人学生も同じだが彼等は英語を母国語としている点でよりグローバル対応だ。日本大学生の大半はまるでローカルで、アジアの学生の方が一握りのエリートだとはしても、よほどグローバル対応だ。こうした現実を政治家や、大学関係者は理解すべきだろう。

 私の小さなオフィスには十一人のタイ人の集合写真がジグソーパズルになったものが飾ってある。十人はエクソンモービルタイランドの人事センターで採用された日本語を話す社員で、日本のエクソンモービルで一年間OJTを受けた。もう一人はマネージャーの女性である。'お世話になりました’の文字と、象や金色のお釈迦様やタイの寺院の写真で縁取りをされている。パズルの裏面には全員の寄せ書きがあり、マネージャー以外は日本語で書いてある。全てとても綺麗な字で、漢字も交えたしっかりした文章である。これを見た私の息子と娘は、日本人が書いたといっても全く分からないと言っていた。もう世界はここまで来ている。日本人学生だけが置いてきぼりをされてはいけないとつくづく思う。