ゴルフクラブメーカーの再編(2)

 前回キャスコ、ウィルソン、クリーブランドコブラなどのクラブメーカーが他のメーカーに買収されたことを紹介したが、今回もゴルフクラブメーカーの保有をめぐる動きについて書いてみたい。
 
 フォーティーンというゴルフクラブメーカーがある。ゴルフに関心のない方は聞いたことがないと思うが、プロゴルファーや上級者の間ではきわめて評価の高いクラブメーカーである。この会社は竹林隆光氏が1981年に創立したもので、最初はゴルフクラブの設計をする会社としてスタートした。竹林氏は日本のアマチュアゴルフ競技界の第一人者として知られていたが、競技引退後ゴルフクラブの設計者となりプロギア、ヤマハその他のゴルフクラブの設計を行い、そのクラブをアメリカのPGAのトッププロや日本のプロが使用し好成績をあげたため、氏はクラブ設計家として高い評価を受けていた。

 竹林氏は2000年に入って自社でゴルフクラブの製造、販売を始めた。群馬県に本社を持つ小さな会社で大手メーカーのようにフルラインでの勝負は出来ないので、ウェッジに特化して製造を始めた。そのウェッジはスピン性能が評判になり、瞬く間に日本のプロの間での使用率が一位になった。その後フォーティーン社はドライバー、アイアンを手掛けるフルラインのメーカーとなった。竹林氏はゴルフクラブ設計・製造のカリスマと言える人であり、彼が書いたゴルフクラブの評価本はアマチュアゴルファーがゴルフクラブを買おうとする時のバイブルのようなものだった。

 そのフォーティーンが2008年の10月にダイワ精工に買収されていた。私も全く知らなかったが、今回たまたまフォーティーンのホームページを見て社長が竹林氏ではないことに気づき、調べた結果分かったのである。何故竹林氏が自ら作った会社を売却したかは分からないが、ゴルフクラブの設計者、評論家として十分にやっていける地位を確立した氏が、会社売却により成功した創業者としての利得を得ようとしても何の不思議はない。

 買収したダイワ精工は釣り具の世界的メーカーとして東証一部に上場しているが、ゴルフ、テニス等にも力をいれており、フォーティーンの買収は総合スポーツメーカーとしての戦略のひとつかもしれない。ダイワのゴルフクラブでは ONOFF が有名で片山晋悟が契約プロである。ダイワ精工は現在社名を変えて、グローブライドとなっているが、これがGlobeRideからきているとはなかなか分からないだろう。慣れの問題かもしれないが、トヨタ、ホンダという大会社もあるのだから、ダイワでも構わないのではと言う気もする。ただしダイワは他の多くの会社名に使われているので、混同を避けたかったのかもしれない。


 マクレガーゴルフは1897年にアメリカで出来た老舗ゴルフメーカーだが、日本ではマクレガーゴルフ・ジャパンと言う会社がそのクラブを輸入、販売していた。ジャパン社はアメリカのマクレガーの子会社だったが、何年か前に株を買い取って独立した会社になっていたようである。マクレガーゴルフ・ジャパンが数年前に独自に開発した、マックテックと言うハンバーガーのような名前のクラブが大ヒットしたのだが、いくら利益を上げても親会社に持っていかれるばかりで(親会社のクラブは最近日本では全く人気がなかった)良い商品を作るインセンティブにならないと考えて、資本関係を切ったとのことである。マクレガージャパンのクラブは藤田幸希プロが使用している。

 このマクレガージャパンが今年に入り、ネオラインホールディングという投資会社に買収された。ネオラインホールディングは藤澤信義氏が社長の会社だ。藤澤氏は東大医学部卒の経営者で40歳である。2年前のレナウン株主総会に行った際に、社外取締役でいたので記憶にあったが、その後氏の会社はNISグループ(旧ニッシン;消費者金融、ローン会社)やラ・パレル(エステティックサロン・チェーンで高野友梨氏が多くの株を保有していた)を買収していた。もっともこのエステチェーンは今年10月に倒産している。氏は5年前にはライブドア不動産社長をしていたが、ライブドア事件をきっかけに同社を離れたといわれている。レナウンをはじめとしていわくつきの企業に目を付ける同氏のマクレガー買収の意図は定かではないが、これによって同社のゴルフクラブやそのマーケティング戦略にどんな影響が出るか興味のあるところである。マクレガージャパンは12月に新しいマックテックのドライバーを発売することを発表したが、そのデザインは従来の物とは大きく変わっている。

 
 本間ゴルフは酒田の本間家の流れをくむ本間兄弟が1963年に設立した。木製のヘッドが主流の時代には'本間のパーシモン'といえば超高級品で、一流のクラブだった。その後メタルヘッドが主流になったが、本間はその波の乗り遅れ、また創業者が色々なスキャンダルを起こし2005年に倒産した。2007年に本間家と離れて再建され、現在は中国のマーライオンホールディングスが保有している。現在では中級から高級なクラブまでそろえているが、特に高いクラブは中国の富裕層に人気があるという。本間ゴルフの今後は同じような道をたどっているレナウンと共に注目されるところだ。

 こうしてみるとゴルフクラブ製造のような小さなマーケットにも再編(M&A)の波が押し寄せていることが分かる。ゴルフクラブメーカーは概して小規模なので買収の対象になり易いのかもしれない。こうした再編が単に一部の投資家のマネーゲームとして行われるのではなく、良い商品を生み出すための企業規模の拡大や、製造・販売の効率化を目的としているのならゴルフファンは歓迎するだろう。