高級車の価格戦略

 レクサスGSに乗って6年ほどになる。走行距離は5万キロほど。特別な車マニアではないがそこそこの興味は持っている。平均的な親父ドライバーで、ステイタスと性能で買う車を決める。欧州車は25年ほど前にBMWの3シリーズを買って7年ほど使った経験がある。だからドライブテクニックなどはなくても車の味のようなものは感じる方で、何年か前に義兄と伊豆にゴルフに行った際に、箱根で彼のクラウンを運転させてもらったがその足回りと車の挙動の緩さのようなものに驚いて、この車は決して買わないなと思った記憶がある。

 レクサスの新しいモデルが揃ってきたので営業マンがしきりと買い替えを勧める。まだまだ今の車が乗れると思うので買い替える積りはないのだが、あまりすすめるから、見にいって値段を見て驚いた。わたしの今の車と同じ350で100万近く高くなっている印象だ。一つ小さいIS250でも数十万は上がっている感じだ。印象としてはかなり強気の価格設定になっている。

 レクサスの全車種にハイブリッド(hb)のモデルが導入され好評なので、hbについてはかなり高価格の設定をしている。それでも売れ行きは良いそうだ。その結果hb以外の車種も高価格にシフトしてきたような印象がする。競合する欧州車に比べもう一つ人気で負けていたレクサスが自信をつけてきたようなやり方だ。

 印象だけでもまずいと思いレクサスがコンピートすると思われる、メルセデスBMWアウディと値段の比較をしてみた。ISの対象としてはベンツのCクラス、BMWの3シリーズ、アウディのA4、GSに対してはベンツのEクラス、BMWの5シリーズ、アウディのA5を選んだ。簡単に言えばボディサイズが同じくらいのセダンどうしを比べた。車に詳しい人ならいろんな意見もあるのだろうが、わたし程度の知識レベルではこんな比較が分かりやすいのだ。

 一言で言うと比較は中々難しいがおおざっぱに言ってある傾向は見える。それは高級車市場におけるレクサスのポジションを示しているのかもしれない。その傾向とはレクサスIS,GSともに、値段的に競合するベンツ、BMWアウディの車種に対してはスペック的(カタログで言うエンジンの排気量や最大出力)に可なり勝っていて、スペック的に同等の車種に対しては値段がかなり安いということだ。

 具体的に言うとIS250と価格的にコンピートするのは、ベンツC180アドバンテージ、BMW320i、アウディA4あたりで、これらの車種はISが2.5リッターなのに1.8から2リッターだ。IS350だとベンツ250アドバンテージ、BMW328iあたりが同価格帯にあり、アウディのA4クワトロはIS250と350の中間という感じだ。IS350も比較対象車よりはスペック的にかなり上だ。

 GSとなるとわたしの350と同価格レベルにはベンツEクラス300アドバンテージ、BMW528L、アウディA6 2.8FSIがある。これをスペック的に同じようなものと比べると、価格は150万から200万くらいは高くなってしまう。

 これを価格戦略として見ると、レクサスは同スペックの欧州車より割安の価格設定をしていると言える。

 だからレクサスは割安だととらえるのか、競合の車より性能的に劣っているから同じ価格帯だとスペック的には上にしていると考えるのか議論が分かれるところだ。これはレクサスが米国市場で成功したほど日本で成功しないのは、日本人の根強い舶来信仰があるからだという説と、レクサスはトヨタの車の一つにすぎなくて、とてもベンツやBMWアウディと比較できる車ではないからだという議論と同じだ。どちらが正しいのかこれは水掛け論になるだろうが、どちらにもそれなりの真実があり、それなりの間違いがあるというのが本当のところだろう。

 例えばベンツのCクラスの最も安いのは399万円だ。ボディサイズは上記のISおよびその対象車と変わらないし、見た目もほかのCクラスとほぼ同じだから 、走りを忘れたらとても買い得だ。1800ccのエンジンは日本車で言えば、トヨタ・プレミオ(旧コロナ)、日産シルフィ(旧ブルーバード)とスペック的には同等だが、これを同じと捉える人はあまりいないだろう。実際の走りは違うし、ボディの剛性の違うし、なによりステイタス感が違う。最近増えたおじさんおばさんの欧州車ドライバーにはこの最後の点が何より重要なのだ。言い換えれば車の出来プラスこのブランド力がメルセデスの強さだろう。レクサスにとってつらいのは、そんなおじさんおばさんにはIS250でさえ、ただのC180より下に見られかねないことだ。乗ったら明らかに違うのだが、そんなドライバーは乗っても分からないかもしれないのだ。

 BMWにもアウディにも同じことが言える。車の走りに非常に敏感な人達はBMWとレクサスを比べるなんてとんでもない、百歩譲って国産車と比べるならスカイラインGTRだなどと言うほど、BMWが好きな人がいるし、アウディも四輪駆動の走りがたまらないと言う人達がいる。そしてわたしのようなただのオヤジでもその主張には確かに一理あるななどと感じてしまうのだ。

 レクサスにはまだそれがない。高級感と安全性、他の日本車とは違う走り、至れり尽くせりのアフターサービスなどが売りで、それはそれなりに上手くいっているがもう一つ欧州車のようなパンチがない。それをハイブリッドに託すとしたら少し違うかなと言う気がする。何かレクサスならではの強みをつくらないと今のポジションからは出にくいかもしれない。

 ただレクサスにとって良いのは前述のように普通のおじさんおばさんがCクラスや3シリーズに乗るようになって、ベンツやBMWのステイタス感に陰りが見えてきたことだ。アウディの人気が高まっているのも、そのことと無縁ではないと思う。この流れが続けばレクサスに乗る方がオシャレだと言う人が増えてくるかもしれない。

 わたしがBMWの320に乗っていた25年前にはまだ今ほど街にBMWがあふれていなかった。初めて運転席に座ってステアリングホイールの真中にあるBMWのマークを見ると嬉しかったし、ゴルフに行く時に乗った同僚がその走りに感心したものだった。家族で毎年スキーに行っていたが、スキーキャリアをつけるホックがルーフの横のゴムの下にあって、純正のキャリアがそこにピッタリはまる作りが、スキーが決して外れないような安心感を与えてくれたのを覚えている。あの頃は国産車とは明らかに違っていたのだ。しかし今は走れば目につくほどに数も増え、一方では国産車の性能がとても高くなっている。欧州車の優位性が落ちているのは間違いない。そんな状況でのレクサスの価格戦略が以前より強気になり、微妙なところを狙っているのが成功するか見ていきたい。

 それでわたしはどうするかと言うとまだもう少し乗ろうと思う。買い換えるなら古くなったセカンドカーを先にするだろう。それに今回こうした比較をしてみると、選択肢は広いなと感じてしまう。もうBMWはいいけど、アウディのクワトロで高速を走ったり、箱根に行ったりしたら楽しいだろうなと思う。レクサスの営業マンはそれを覆す話を持ってきてくれるのだろうか。