阪神タイガースに見る日本プロ野球の問題点

 小学生の時からの阪神ファンだ。50年以上の応援してきたことになる。横浜球場で見た村山と秋山の投げ合いや、新人の時に田淵が打ったライナー性のホームランなど今でも記憶に残っている。阪神が嫌になって熱が冷めたのは、1973年の中日戦で先発した江夏が球団首脳からわざと負けることを求められたと、雑誌で読んだからだ。あの試合は優勝がかかっていたのに、何故か簡単に負けて腑に落ちない気持ちがあったので、その噂を知った時は'さもありなん'と阪神球団の体質を見たような気がして、応援するのがつくづく嫌になった。

 その後掛布、岡田、バースなどが活躍してまた熱心に応援するようになったが、また最近はすっかり熱意が冷めてきている。良い選手(特に野手)がいないのだから、弱いのはやむをえないが、負け方と言うか、試合ぶりが気に入らない。それは選手の問題ではなく、首脳陣とフロントの問題だ。


 阪神首脳陣の采配については2つの点で疑問がある。1つはバントの多用だ。ノーアウトまたはワンアウトでランナー1塁だと、打者がクリーンアップ以外だと10中8,9バントだ。上本、大和の1、2番コンビは今年阪神で最も成長した野手だが、彼らの場合前記の状況だとまず100%バントである。その時点で彼等の打撃が後続の打者より好調だとしても、バントが指示される。ダブルプレーやランナーが進塁出来ないことを避けるためだろうが、バントが成功したとしても、阪神のクリーンアップがその走者を返せる確率は高くないのだ。でも監督はそれしか正解はないと信じ込んでいるようだ。

 送りバントを否定はしないが、それは幾つかある戦法の一つであるはずだ。何が何でもバントでは、戦法としてはあまりにも脳がないし、何より野球がみみっちくて、それまでして1点がとりたいかと言ってやりたくなる。俺たちは勝つことに責任があり、1点を取ることの重みを感じているのだ、お前たちのように気楽にみているわけではない、というのが首脳陣の気持ちだろう。だからと言って、何の想像力やひらめきのない戦法をとるのを正当化できるわけではない。プロとしてお客を魅了するプレーや作戦を見せる責任もあるからだ。

 もう1つの疑問はピッチャーの交代についてだ。先発投手がまずまずの出来で、5,6回まで抑えた場合によく感じる疑問だ。それまでの球のキレが落ちてよい当たりをされ始めた時、誰もが交代のタイミングを考える。阪神の首脳陣も同じだと思うが、この時点で交代をすることはほとんどない。投手コーチはマウンドに激励に行くが、たいてい続投だ。そしていつ代えるかというと打たれて点を取られてからだ。特に逆転されると決断の踏ん切りがつくのだろう。

 先発がまずまずの調子で投げていると、できるだけ引っ張ろうとするのが基本的な姿勢のようだ。素人が見ていても、球威が落ち、よい当たりをされているのに、変えようとはしない。よい中継ぎがいないという理由があるのかもしれないが、それよりも先発を代えて失敗するすることを恐れているように感じる。代えないでもっと悪い結果になってもやむを得ないと思っているようだ。一回、一回の意思決定は現場にいる人の感覚で行うべきなのに、あまりにもセオリー重視で、試合の流れとか選手の調子を見て、プロとしての判断を下そうとはしていない。こうした傾向は真弓と和田が監督になってから特に強いと思う。

 この二人が監督になってから野球がつまらないし、成績も振るわない。マニュアルに従って采配をしているようで、まるで上の意向ばかり気にするサラリーマンのようだ。選手の起用についても、昔活躍したベテランをできるだけ起用するので、若手にチャンスが回ってこない。どうみても監督としては適任ではないのに、球団は彼らを使い続けようとする。まるで任命した責任を認めたくないようだ。きっと球団幹部からみると彼らは使いやすい部下なのだろう。球団を本当に強くしたいという気持より、いうことをよく聞く部下を使って仕事をすることの楽ちんさを重視しているのだ。もし球団幹部が阪神を強くしたいと思って、今の監督人事をしているならば、それは根本的な誤りで、彼らの経営能力の問題となる。

 阪神も野村、岡田が監督をしているときは、采配ももっと納得がいくものだったし、選手を育てようとする熱意と工夫があった気がする。岡田は今年オリックスで監督をしたが、不振で首になり、評価を下げたようだが、わたしは監督としてはすぐれたものを持っていると思う。彼には自分でこういう選手を育てたい、こういうチームにしたいという気持ちがあった、とみている者に感じさせた。結果は運、不運もあるから思い通りにはいかないが、プロセスでどれだけ工夫をし、頭を使ったかをみるべきだと思う。阪神球団の幹部にはそうした視点がないようだ。

  上で論じた問題は阪神だけのものではなく、日本の野球界全般に言えることだ。特に長いこと人気に胡坐をかいていた、セリーグの球団に強い傾向だ。中長期的に球団の経営を改善する気がなく、場当たり的な対応でそこそこの収入を得てきたから、監督人事も戦略的ではない。その結果、勝てば良いという戦法に終始して、野球の面白さを損なっている。今レンジャーズにいる上原が、大リーグでプレーする楽しさを'子供の時に還ったようだ’と表現していたのが印象的だ。'どうだ俺の球が打てるか’、'ホームランを打ちこんでやる’といった野球人の原点が生きていて、そこで才能あふれた選手がぶつかり合うのが魅力なのだと言いたかったのだろう。する方も、見る方もわくわくする野球、MLBにはそれがあり、日本の野球はそれを失いつつある。

 プロ野球がそうだから高校野球も同じように、あるいはもっとせせこましい。野球少年のはつらつさを抑え、いつも勝利優先だ。プロ野球が原点に戻らない限り、野球の人気も下がっていくと感じざるを得ない。