クライマックスシリーズは意味あるのか

 日本プロスポーツ大賞ソフトバンクホークスに与えられた。リーグ戦、クライマックスシリーズ日本シリーズを勝ち抜いて名実ともに日本一になったことが評価されたのだろう。当然の受賞だと言えるが、もし日本シリーズでDenaに負けていたらどうだったのだろうか。取れなかったような気がする。またDena日本シリーズで勝ったとしてもこの賞を受賞するとは考えにくい。年間を通した成績で見るとセパにはもっと良い成績のチームがあるからだ。セリーグで3位に入り短期戦のプレーオフを勝ち進んだ結果の日本シリーズであり、この期間たまたまチームの状態が良く運にも恵まれたDena日本シリーズに勝ったからと言って、その年の日本一のプロ野球チームとして認められることに違和感を感じるのはわたしだけではないだろう。

 このことは日本プロ野球(NPB)のクライマックスシリーズなる珍妙な制度の正当性についての疑問を改めて浮かび上がらせる。NPBは基本的にアメリカ大リーグ(MLB)のやり方を真似してきた。試合内容やリーグ戦の優勝争いの面白さを高めるために自ら考えて何かを作り出すというより、MLBが導入した仕組みを取り入れることで今日まで来たと言える。クライマックスシリーズもその一つでMLBプレーオフ(ポストシーズン)を真似したものだ。一見同じように見えるNPBMLBプレーオフはその必然性という点では全く違う。

 後述するようにMLBプレーオフは必要だと納得がいく点が多いが、NPBの方は何のためにやるのかよく分からないからだ。一年間同じリーグのすべてのチームが同等に割り当てられた対戦相手と戦い順位争いをする。その結果はその年のリーグの成績以外の何物でもない。セリーグパリーグそれぞれのリーグ戦の一位が日本シリーズで戦いその年の日本一をを決める。これがまことに分かりやすく公正だ。MLBよりシンプルで優れているともいえる。ところが各リーグの1位から3位までのチーム、各リーグ6チームしかないのだから半分ということだ、そのチームにクライマックスシリーズへの出場権を与えてリーグの代表チームを決めるというシステムを導入したことで、リーグ戦で勝つことと日本シリーズに出ることが別のことになり、何が重要なのか分からなくなってしまった。

 何故そんな制度を導入したのか議論する前にMLBのレギュラーシーズンとポストシーズンの仕組みを見てみよう。MLBにはアメリカンリーグナショナルリーグの二つがあり、それぞれ15球団を持つ。日本の25倍の国土に合計で30球団あるのだから日本のようにそれぞれのリーグで全く同じ対戦相手を組んでリーグ戦を行うのは難しい。そこで両リーグとも15のチームを3個のグループ(東、中、西地区)にわけそれぞれ5チームずつとした。そして同じ地区のチーム同士の試合を軸にした上で、同じリーグの他地区のチームとの試合を加える。具体的には同地区のチームと76試合、他の2地区のチームとそれぞれ33試合、違うリーグのチームと20試合で、合計で162試合になる。だからア・リーグの東地区と中地区と西地区では同じリーグとはいえ対戦相手毎の試合数がまるで異なる。また違うリーグとの試合相手はまるで違う。これでは同じリーグ内で勝率を競う意味がないことになるし、どのチームが一番か分からない。そこで各地区の優勝者同士でプレーオフ(ポストシーズン)を行いリーグチャンピオンを決めるのだ。しかし3チームではトーナメントにならないのでもう一つチームを選ぶ。これがワイルドカードだ。これには同じリーグの地区優勝者を除いた12チームの中で勝率の高い2チームが選ばれ1試合戦い勝った方が選ばれる。まあこう書くと複雑で分かりにくいがプレーオフをやる意味があることは理解できる。もっともMLBのやり方が欠点がないわけではない。同じ地区内のチームでも他地区とのチームとの対戦は数が全く同じでないとか、ワイルドカードへの権利獲得はリーグ内での勝率で選ばれるとか公平性とか一貫性に欠けることがあるからだ。しかしそうした小さな矛盾は気にしないというのが米国的なおおらかさとも言えるし、こうした仕組みを考えたのはやはり凄いものだ。

 前述したようにNPBはリーグ戦、交流戦共に各チームが全く同じ対戦を行うという点で分かりやすく公平だ。これにクライマックスシリーズを加えたことでかえって分かりにくくなり、公平性を損なっているのが問題だ。何故こうしたかというと各リーグ3位までのチームにクライマックスシリーズの出場権を与えるということで、リーグの1位が決まった後でも3位に入るために他のチームが頑張る、つまり消化試合を減らす、そしてファンの興味をつなぎとめる効果があると考えたからだ。MLBプレーオフをやらないとリーグ優勝者を決められない仕組みを作ることでファンの興味をつなぎとめることに成功したのだが、NPBは優勝者は決まっているのに新たにリーグ代表チームを選ぶという理屈でプレーオフをやっている。元々は読売ジャイアンツがリーグ一位になれなくても、セリーグ代表として日本シリーズに出るチャンスを残すために読売がごり押しして出来たのかもしれないが、今では各球団もこれに疑問も持たないのはその経済効果ゆえだろう。金のために正義とか公正を犠牲にしているともいえる。こんなダブルスタンダードを放置して良いはずがないし子供の教育上だってまずいだろう。高校野球の欺瞞性もそうだが、日本の野球界は思考停止状態というか、脳みそが腐っている連中が物事を決めているとしか思えない。

 日本では野球一強時代から様々なスポーツの時代に入っている。子供の世界ではサッカー人気が野球を上回っているという意見もあるし、テニス、卓球、ゴルフ、バトミントンなど多くの球技の人気が高まっている。だから野球界が何か手を打って人気をつなぎとめようとすることは必要だと思う。しかしそれはクライマックスシリーズではないはずだ。中々妙案は浮かばないが、球団を増やすのは一つの手だと思う。1リーグ6球団を8球団にしたらどうだろうか。現状維持派の人たちは弱いチームが増えるだけで、NPBのレベルを下げて試合の質を下げるだけだと言うだろう。しかしNPBはサッカーなどと比べて敷居が高すぎる気がする。球団を増やせばプロ志望の人たちに対してより大きく門戸を開けるし、力があるのに二軍にいて成長する機会を得られない選手や、まだやれるのに契約打ち切りになった選手たちに活躍の場を与えられる。NPB以外のプロリーグもあるし、各チームには二軍があるし、希望してもドラフトで指名されない人たちも多いから12チームから4チーム増やすことは可能なはずだ。外国人選手を積極的に活用するのも良いだろう。
 もう一つのアイデアは下部リーグを作り入れ替え戦をやることだ。この場合は現状のリーグ6球団で良いと思うが、それぞれのリーグで最下位のチームは下部リーグの優勝者と入れ替え戦をやる。これも消化試合の減少には有効だと思うのだが、下部へ落ちると立派な野球場などが維持できないと言った問題が起こるかもしれない。サッカーのようにはいかないかもしれないがすべて白紙にして考えることも必要だと思う。

 ソフトバンクホークス日本プロスポーツ大賞受賞には全く異論はないけれど、上述した問題を改めて考える機会にしたらどうだろうか。