農協職員の横領頻発の背景(1)

 佐久浅間農協で40代の女性職員が4700万円を着服したとの報道があった。顧客の定期預金を勝手に解約するという手口だったが、被害額は全額弁済されたという。当農協はこの職員を解雇した。佐久浅間農協では2011年にも男性職員が9390万円を着服、2012年には女性臨時職員が82万円を着服したと報道されている。この男性職員は組合員から定期預金のために預かった現金を着服していたという。

 内部統制状況があまりにお粗末なので呆れてしまうが、調べてみると職員の横領はこの農協だけではなく全国で頻発している。金を扱う業務では不祥事が起こりやすいので、それを防ぐ方策を二重三重に施すのが普通だが、地域の農協ではそんな対策を打っている様子はない。何故こんなに横領事件が起こるのか調べてみると、これがなかなか根の深い問題だということが分かってきた。

 農協の内情に詳しい人は、地域の農協の職員が置かれた状況に問題の根があるということが多い。佐久浅間農協はその良い例で、こうした農協の上には県農協があり、その上には全国レベルの組織がある。全国中央会とか全農とかがそれで、よく聞く名前だが部外者にはよく分からない組織である。農林中金やJA共済、JAバンクもその一つと言える。こうした上部組織は各地の農協の活動を支援するためにあるのかと思うが、実際は全国や県の農協組織が各地の農協の上に君臨して、上部の組織が考えて提供する事業(金融、保険、販売サービス等)を各地の農協に実施させている。また各地域の農協を監督し監査する役目も行う。各地の農協は実働部隊であり、中央や県の組織・職員を維持するための存在となっている。

 昔の農業従事者は農産品の販売や農機具の購入やそのための資金手当てなどをよく知らなかったので、こうした上部団体がそれを代行していたのだろう。しかしすぐに中央の農協組織はそうしたサービスで多大な利益を上げるようになった。各農家の活動を支援するというより、各地の農協を通じて金を預かったり、物資の販売をすることで農家を利益を生む存在ととらえてきた。よく聞く話だが、農協を通じて買う農機具や耕作機械は一般に買うのと比べ安いわけではなく、直接業者から買った方が安いことも多いのだが、それが出来ない仕組みになっているという。しかし各地域の農協に利益が行くわけではなく、それは中央に吸い上げられていると言われている。

 そこで職員の話に戻るが、組織におけるヒエラルキーが職員についても当てはまるようだ。各地の農協の職員の給料は(都市部と地方では大分差があるようだが)、県連の職員の半分、全国連合会の職員の4分の1だと言われている。全国連合会の職員の給料は一流会社と同等で、実際トップの国立大学の卒業生が多い。要するに地域の農協の職員は中央から押し付けられた業務を行い、給料は極めて安いからまるでモチベーションが上がらないらしい。実際各地の農協の職員への保険のノルマなどは相当にきついという。だから不心得な者は横領をするのだというのがその説明である。しかし世の中には恵まれない労働条件で働く人たちは沢山いる。だからと言ってそれらの人たちが横領をするかというと農協ほどひどくはない。職員のモラル以外の理由もあるようなのだ。それについては次回で論じたい。