石川遼、海外で勝つためには

 石川遼がミズノオープンで惜しくも優勝を逃し3位になった。先週全米オープンに出たばかりなのを考えると立派な成績といえるだろう。やはり全米に出て石川と同順位だったキム・キョンテは2位に入り、日本ツアーではこの二人の力が抜きんでていることを示す結果となった。

 その石川だが全米オープンでは30位に入り、4月のマスターズの20位に続いての健闘だった。全米での優勝はアイルランドのR.マッキロイで2位に8打差をつけてのぶっちぎりだ。22歳のマッキロイは昨年の全英、今年のマスターズと優勝争いをした後の全米制覇で、これと比べると石川の成績もかすんでしまう。もう少し上位に食い込みたかっただろう。タイガーが休んでいるとはいえ、世界中の強豪達と競いあって上位に入るのは簡単ではないのは良く分かるが、このままではメジャーとは言わずPGAのトーナメントでも勝つのは、よほどの幸運に恵まれない限り無理だろう。

 それではどうすれば石川遼は海外のトーナメントで優勝争いできるようになるのだろうか? 今のやり方、主に国内でプレーしながら海外のビッグトーナメントにスポット参戦する、を続けて経験を積み、運が来るのを待つのも一つのやり方だ。これは苦労もリスクも少ない方法である。しかしそれ故に効果は小さいし、世界で通用するトッププロになるのは難しいように思える。それより出来るだけ早く海外へ出るのが良い。石川自身も将来的にはアメリカ参戦を目指していると言っていたが、将来とは言わず来年からでも行くべきだ。USPGAが難しいならヨーロッパツアーでもよいと思う。

 海外に腰を据えてレベルの高いツアーに参戦するメリットは沢山あるが、わたしは父石川勝美氏と離れることのプラスが最も大きいと思う。石川勝美氏は石川遼の父であると同時に、プロゴルファー石川遼をマネジメントし、そのコーチも務める。勝美氏自身は90前後で回るアベレージゴルファーだそうだが、石川遼を小さい時から指導してきたので、現在もコーチをしている。TVのインタビューで石川遼自信も「お父さんほど僕のスウィングを理解している人はいない」と言っている。勝美氏は同じ番組の中で「遼が誰かの指導を受けたいというなら反対はしない」と言いつつ「日本でナンバーワンのプレーヤーにバカヤローと言える人がいるだろうか」とも言っている。石川遼を指導できるのは自分だけだという強い自負が感じられる。以下では勝美氏が果たしているマネージメントとコーチの両面から、石川遼への影響を考えてみたい。

 石川勝美氏は信用金庫に勤め支店長職などを経験したサラリーマンであり、インタビューなどからはそれなりの常識を持つ人に思える。同時に強い自信家のようで、元々のそうした性格が、自分が育てたプロゴルファー石川遼の大活躍によって極めて強烈なものになっているようだ。勝美氏は石川遼のマネジメントに際し、不都合な記事を書く記者に対して取材を拒否することで、好意的な記事しか報道されないようにするという。マスコミも勝美氏のこうした姿勢に疑問は持つものの、石川遼への取材拒否は避けたいので従っているそうだ。勝美氏は日本PGAに対しても運営方法などで様々な注文を付けるようだが、PGAの方も石川あってのツアーなのでその主張を無視することは出来ないようだ。極めてマーケットヴァリューが高い石川遼を使って自分の思い通りに物事を勧めようとする戦略だ。大変分かりやすい戦略だが、問題はそれが効果をあげているかどうかだ。

 東日本大震災の後、石川遼サイドは被災地支援の一環として石川遼ブランドのヘッドカバー、定価3,150円のものを1,000円で販売(送料別途必要)すると発表した。これに対し震災支援を口実にした在庫処分ではないかと、2チャンネルなどでは猛烈なブーイングが起こった。私は報道でこのことを知ったので石川サイドがどんな説明をしてヘッドカバーでの義捐金集めをしたのかはわからないが、石川遼がやれば成功するだろうと考えた思慮に欠けた行為で、2チャンネルでの非難は当然な気がする。その後石川サイドは今年のツアー賞金額全部とバーディ一つ当たり10万円を寄付すると発表し、総額で2億円を目指すと語った。これは美談として伝えられたが、ヘッドカバー騒動で悪化したイメージを修復しようとする意図が感じられる。これについても大橋巨泉の、'これから稼ぐであろう金を寄付するより、今まで稼いだ金からある金額を寄付するのが筋ではないか'という指摘は全く正鵠を射ている。しかしヘッドカバーで味噌をつけた石川サイドには、今さら一定額を寄付するという選択はとれなかったのだろう。これらは未成年の石川遼が考えたというより、勝美氏のアイデアだと思うが、そう考えるとヘッドカバーの件がマスコミであまり取り上げられなかったことも理解できる。

 もう一つ最近話題になったのは石川遼無免許運転である。石川がアメリカ遠征の際の空き時間にとった国際免許証を使って、日本でも車を運転していたのが違法だったという件だ。これも勝美氏がマスコミに圧力をかけて報道されないようにしていたが、そんな圧力が効かない一部週刊誌に書かれて明るみに出た。全てのマスコミをコントロールすることなど所詮無理なのである。

 これら一連の出来事を見ているといかにも対応が稚拙である。まともな会社の広報担当者なら決してしない行為だ。現在のマスコミ対応の基本は透明性を高めることで、都合の悪いことでも早めに公表する方が、中長期的にはプラスになるという考え方だ。それに対し石川サイドのやり方はあまりに旧態依然としていて、結果的には石川遼のイメージを傷つけてしまう。石川遼が父親のことを公の場で'お父さん'と言うことに対する違和感は前から指摘されていたが、これも傲慢だと言われて評判の良くない勝美氏のイメージを和らげるために、石川が意識して使っているとの報道があった。石川サイドへの提灯記事かもしれず、真偽は分からないが、たとえ真実だとしても決して美談ではなく、良いイメージはない。石川遼は親離れが出来ないように思われるし、勝美氏は息子にいらぬ気を使わせてなんだということになる。こういう状況では、マネジメントが上手くいっているとはとても言えない。

 これに比べるとコーチの件はもう少し複雑である。石川クラスのトッププレーヤーに対するコーチの役割とは何かという問題に行きつくからだ。勝美氏の'日本一のプレーヤーにバカヤローと誰が言えるか'という言葉は、トッププレーヤーのコーチに必要なのは技術的なアドバイスより精神的なサポートだということを示していると思う。トッププレーヤーなら技術的な問題は時間をかければ自分で解決してゆけるが、精神的な面は信頼できる人のサポートが必要だということを言っている。この辺りになると私には分からないが、アメリカでは技術的な面とメンタルな面を分けて別の人がサポートをするとも聞いている。石川の場合、小さい時から指導してきた勝美氏が両方を兼ねていて、実際は精神的なケアに比重がかかっているのだろう。

 石川は既に日本ではトップレベルだから日本でやる以上は今のままでよいだろう。しかし世界でアメリカやヨーロッパの一流選手と互角にやるにはやはりプロのコーチが必要なのではないかと思う。ウッズやミケルソン、ウェストウッドなどを見るコーチなら石川に対し厳しいことも言えるだろう。そうしたコーチは石川より強い選手を指導しているわけだから。以前書いたがあのニクラウスでさえ、上手くいかない時はコーチにアドバイスを求めていた。一流のプレーヤーはコーチが必要ないから一流なのではなく、コーチの言うことが理解出来、それに合わせてすぐにスイングの調整が出来るから一流なのだろう。

 以上述べてきた理由で、石川遼がもう一段高いレベルに達するためには勝美氏と離れた方が良いと思う。日本にいてはそれが難しいだろうから、海外に行くべきだ。石川の今のサポート体制を一度解散して新しい環境でチャレンジをすべきだろう。キャディの加藤大幸さんとは深い信頼関係があるようで石川の支えになっているとは思うが、彼とも一度離れて海外では現地の事情に詳しいキャディを雇った方が良い。こうした試みはリスクもあるが、石川が一皮むけて大人になるチャンスでもある。日本のス−パースター石川遼の肩には様々なものが乗り、おおいかぶさっている。石川一人の希望では動けないこともあると思う。しかしそれを振り切ることが飛躍の道ではないのか。宮里藍がそうしたように、また日本のサッカーの選手たちが海外で活躍して技術的にも精神的にも成長を遂げているように、より厳しい競争に身をさらしてこそ本物の実力がつくのだと思う。日本のゴルフがアメリカやヨーロッパからはるかに遅れ、今や韓国にも負けているのは、トッププロ達が居心地の良い国内にとどまり安住していたからだ。