都心マンションの販売好調への疑問

 東京都心部や神奈川の一部などのマンションの販売が好調だそうで、2か月ほど前にはいくつかの雑誌で特集をしていた。東京圏でも郊外や、名古屋、大阪は別で相変わらずの低迷状態が続いているそうだ。マンション購買層の都心志向が強いのと、長く続いた価格低迷で都心マンションにも割安感が出ているのが人気の理由だと分析している。

 5月24日付のアエラでは'勝つマンション争奪戦'という特集をしていて興味深い記事になっていた。これによると従来から人気のある港区、中央区、品川区に加え、江東区と3K(亀有、亀戸、金町)の人気が上昇しているという。一方で団塊の世代が多く住む、郊外の新興住宅地やニュータウンは人気が凋落している。

その記事は、裏技として人気の落ちている地域が簡単に分かる方法を紹介している。地名に「野」「丘」「台」がつく「の・おか・だい(農家だい)エリア」の多くは元農家の土地で、右肩上がりの時代にはブランドイメージが高かったが、今は人気が落ちていて、今後は一層値下がりしやすいと予測しているのだ。私鉄沿線のこのような地域は25年ほど前にはTVドラマ'金曜日の妻たち'の舞台となって、おしゃれな雰囲気で非常に人気があったところである。それが今や団塊の子供たちからは、親たちが苦労して手に入れて自慢にしていた資産は評価されず、老朽化した家が並ぶ住宅街になろうとしているのである。

 1980年代のバブル期は土地の値段が信じられない勢いで上昇し、多くの人達は家とかマンションを今買わないと、一生手に入らないと考えていた。そして無理をして家やマンションを手に入れたのである。「の・おか・だい」がつくエリアはその中でも庶民の羨望の的だったと言っても過言ではない。無責任な経済評論家たちは、土地上昇に基づいたバブル状況が永遠に続くような予測をしてバブルを煽り、銀行は無節操な貸し出しをしてそれを支えた。しかし80年台最後にはバブルは崩壊し、日本は失われた10年を過ごすことになる。今から見れば、あの馬鹿みたいな地価の上昇がずっと続くことなどあり得ないと思うし、一生家を買えなくなるなんてことはないことがよく分かる。

 団塊の世代が退職すれば労働人口は減少に転じるから、親の時代と労働や通勤の環境が変わるのは自明のことなのに、経済評論家やエコノミスト達はそのことには触れず、無責任にバブルを煽ったのである。そのことを考えると、わたしは現在の都心のマンション人気についても懐疑的にならざるを得ない。将来をみると一層の人口の減少は明らかだし、テクノロジーの進歩によって家で仕事をするホームオフィスが一般的になる可能性すらある。特に優秀な女性を活用しようとすれば、育児、家事との兼ね合いを考えると家庭での仕事は避けられない。もしそうなると無理して都心に住む必要はないし、オフィス用のスペースがとれる大きな家のほうがよいし、郊外のほうが子育てにも良いかもしれない。

 企業の立場にたっても都心の一等地に1000人も、2000人も勤務することなどコストがかかるだけだ。ホームオフィスやサテライトオフィスにすれば、オフィスコスト、通勤費等で膨大な節約になるだろう。勿論わたしは必ずそうなると言っているわけではない。マスコミや業界が煽る都心のマンション人気に踊らされるのではなく、上述したシナリオの可能性も視野に入れて意思決定をすべきだと言っているのだ。もしかしたら最も経済的で柔軟性のある選択は、ずっと家なりマンションを借りることかもしれないのだ。初めは都心に借りたとしても、結婚し、子供が産まれたら、郊外のニュータウンのどこかを安く借りるのがよいかもしれない。なにしろニュータウンの多くは高齢者しか住まないゴーストタウン化しており、彼等がもっと年をとったり亡くなったりしたら、二束三文で売るか貸すかするしかないのである。しかしそんなゴーストタウンも人が帰ってくれば又活気が戻るはずだ。

 給与が上がらないのに税金だけが上がると言った憂鬱な予測だけに右往左往せずに、冷静に今の年金世代が作った資産を上手く使うことも出来ると考えれば、別の将来が見えるかもしれない。こんな時代こそ多面的で柔軟なものの見方をして行動すべきである。